「おはよう、二人とも。待たせてすまなかったな」

「……いえ」

「僕たちのことは……おかまいなく」


ようやく現れた九段くんは、後ろから私の首へ腕を回した状態のまま挨拶をする。私を腕の中に引き入れ、頭に顎を乗せるようにして抱きしめているような体勢である。
それに答えつつも、有馬さんと片霧さんは視線をやや下に向けた。目の前の二人がどんどん困ったような表情になるのは、明らかにこの九段くんの挙動のせいだろう。


「こら、九段様、お待たせしたお客さんの前でだらしないですよ」

「む、椿、様付けで呼ぶのはやめて欲しいと言ったが?」

「今は仕事中ですから!ほら、離れてください。朝ご飯たべないんですか?早く席に着かないと、朝食抜きにしますよ」

「そ、それは困る!」


ぱっと私から離れて、九段くんはいつもの席に着いた。解放された私は、一息吐いて台所へと朝食の準備に向かう。九段くんはどんなに忙しくても、しっかりご飯だけは食べる。大きくなっても食いしん坊なのは変わらなかったようで、そう思うと、ぐんぐん背の伸びた彼にも納得である。


「二人とも、朝食は食べたか?良ければ一緒にどうだろうか」

「僕たちは済ませてきたから大丈夫です。それよりも――相談役」


片霧さんはちょっと声を潜めて、ちらりと私を見やったあとに九段くんに向き直った。


「椿さんのこと、とてもうまくやられたとは思うのですが、軍に知られたらまずいことになるとは思うので……もし身を固められるのでしたら早めに仰ってくださいね。僕も何か協力できるかもしれませんし」

「ん?なんのことだ?」

「だから――お二人の関係、結構噂になっているんですよ。昔馴染みだっていうのは聞き及んでますが、その上、この軍邸に二人きりで夜を過ごしているとなると――」

「何か問題でもあるだろうか?」


言われた九段くんは、ぽかんとしている。片霧さんの言わんとしてることがつかめないのだ。私はというと、ぎょっとして運んできたトレイを落としかけた。危ない。
九段くんの前に配膳をしつつ、慌てて片霧さんの言葉を否定する。


「ちょ、ちょっと片霧さん何言ってるんですか、何かすっごい勘違いしていらっしゃるようなのですけど!私と九段くんは、そういう関係じゃないですから!見て解るでしょう」

「え、そうなのですか? 僕からはとても仲睦まじそうにお見受けしますし、実際お似合いだとは思いますけれども」


彼の言葉に、愕然とする。つまり九段くんと私が、いわゆる男女の関係ではないかと疑われているというのである。しかし言われてみれば仕方ないのかもしれない。若い男女が屋敷に二人きり、という状況。九段くんはそれなりに有名人であるし、中身はともかく、外見はすっかり大人の男性なのだ。私の中で九段くんは、まだまだ子供の頃の印象が強く、意識してもみなかった。


「困ります…。九段くんは昔の印象が強かったから、そんな風に思われるなんて考えてもみなかった。接するときも、昔と同じような……九段くんのお姉さん気分が抜けなかったから」

「お姉さん、ですか? うーん、そちらの方が僕には意外ですけれど」


お姉さん、という言葉に片霧さんはきょとんとした。二人には、私と九段くんの数奇な関係を詳しく伝えてはいないのだ。今の私たちは年齢が変わらなくなってしまっているので、私が彼のお姉さんといってもぴんとこないだろう。





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