「僕も、その服は君によく似合っていると思いますよ」

「お、お世辞はいいですよ〜」


さらりと向けられた褒め言葉に、社交辞令とわかっていても照れて頬が熱くなる。柔らかく微笑む彼は見目もなかなか良いので、質が悪い。誤魔化すように用意したカップを二人の前に置くと、私は苦笑を返した。


「お世辞ではないですよ。確かにまだ帝都では珍しいけれども、宮本さんはとても素敵に着こなされていると思います。ねえ、有馬もそう思うでしょう?」

「俺にはそういうのは解らないが、……変ではないと思う」

「有馬語で、よく似合ってる、とのことです」


ふふ、と微笑んだ片霧さんに対し、有馬さんは堅い表情のままカップに口を付けた。
有馬隊長と、片霧副隊長。二人は九段くんの設立した精鋭分隊のツートップである。きっちりとした軍服を身に纏う姿はまさに軍人であり、二人が居るだけでいつもの居間の空気が引き締まるような思いがする。


「ごめんなさい、九段様は先ほど起こしたのでそろそろ来るとは思うのですけれど。この頃、徹夜が続いていたみたいで」

「いえ、僕たちもあらかじめ連絡をしていなかったので」


片霧さんはそう言って、眉尻を下げる。この二人は、精鋭分隊の件で相談があるということで、早朝から軍邸を訪ねてきたのだった。けれども、当の九段くんはまだ起きていなく、支度が済むまで待っていていただくことになった。

それはそうと、この二人の上司にあたるのが九段くんという事実に、未だにピンとこない自分がいる。あの、のほほんとしている九段くんに、軍の相談役という堅い肩書きがあると知ったときも随分吃驚したのだ。でも、こうして頼って隊長自らやってくるということは、九段くんもしっかり働いているのだろう。なんだか、不思議だ。

ちなみに軍邸で働きはじめてからこの二人には何度かお会いする機会があり、私ともすっかり顔なじみだった。だから話のついでに先日のハルさんとの話をしたら、返ってきたのが先程の返答だったのだ。


「ところで、いつもの家政婦さんは今日はいらっしゃらないのですか?」

「ハルさんですか? 彼女は通いなので、来るのはお昼前からなんです」

「え、では朝は宮本さんお一人で相談役のお世話を?」

「はい。まあ、お世話といっても精々、起こしたりご飯の支度くらいですけれども」


大きくなった九段くんは流石に良い年なので、昔のように目を離せないということはない。私としてはやや、物足りないくらいだ。
とはいえ、ハルさんが居ない間の軍邸を任されるのは責任重大だ。軍邸はかなり広いお屋敷で、外には警備の人も立っている。けれど、中で働く家政婦は私とハルさんしかいないのだから。

それでも、なんだかんだいいつつ、家政婦の仕事は私の性に合っているらしい。九段くんやハルさんにとって私の出現は七年ぶりだったようだが、私自身からすると、ついこの前まで駒野家で同じようなことをしていたのだ。だから特に戸惑うことなく仕事をできていて、その点はかなり有り難い。


片霧さんは私の返答に驚いたように目を丸くした。彼のその反応は予想していなかったものなので、私は何か変なことを言ってしまったかと、焦る。


「ええと片霧さん、私だと何か不足なことがありましたでしょうか?」

「え?! いや、そういうわけじゃないんですけど…まさか、九段相談役と二人きりだっただなんて」

「え?」

「いや〜……僕は別に悪いとは思ってないのですが、ねえ、有馬?」

「な、俺に話を振るな!」


有馬さんもなんとなく、困ったように私を見ていた。


「もし何かあるのなら、遠慮せず教えて欲しいのですが…」

「うーん、だから、その、九段相談役も隅に置けないなあ、と」

「我がどうかしたか?」


背後から、伸ばされた腕に引き寄せられる。背に体温を感じて見上げるように振り返ると、そこには九段くんがやってきていた。



160510



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