「ええっ、ハルさん通いなんですか?!」

「はい。近くに家を借りていますから。でも安心してください、椿さんは住み込みということで九段様が話を付けられたそうですから」


安心してくださいね、と言い残して帰って行ったハルさんを見送ったのは、私が帝都にやってきて三日目の夜だった。そのとき、私は唖然としながらも、あてがわれた部屋に戻ったのを覚えている。
帝都にやってきてすぐは、まだ私が混乱しているだろうと考慮の結果、ハルさんは軍邸泊まり込んでくれていたらしい。本来彼女は、夕方に夕食の準備をするまでで帰るのだ。

(わざわざ私の為に残業してくれてたのか)

とちょっと申し訳ない気分になった。同時に思ったのは、ハルさんも九段くんも、たまに説明不足な時があるということ。二人とも、基本的には仕事が早いのだ。だから私に関する手配は私が目覚めたその日中に整ったらしい。しかしその事すら、私自身が認識したのはついこの前のことだ。




そして今また、同じような状況に陥っている。


「あの…私だけこんな制服で、おかしくないんですか?」


衝撃の事実が発覚したその後、道中でも散々繰り返した疑問を投げかける。こんな制服、といって摘み上げたのはいわゆる、メイド服というやつである。町中に洋服の人は増えてきているとはいえ、帝都でもまだまだ全てが西洋式というわけではない。そんな中で西洋式のメイド服というのは、奇抜もいいところ。おかしなところがあるわけではないのだが――何分、目立つ。
最初は決められた制服だと思っていたから気にならなかったけれども、九段くんチョイスであることを知ってからは、同じお仕事をしているハルさんが普通の割烹着姿であることが気になって仕方がなかった。


「九段くんは似合う似合うって言うんですけれど…でも、私専用に用意しただなんて、九段くんの手を煩わせてしまったでしょう。そもそも仕事を居場所を用意してくれたことだって、申し訳なく思うのに」


うーん、とつい首を捻りながらハルさんに訴える。九段くんはそんな私の微妙な気持ちに気がいかないのか「我が着せたいと思ったからそれにしたのだし、似合うから問題ない」の一点張りだ。
確かに問題はない。意外と動きやすいし、仕事着と解りやすいし。だが、同業である筈のハルさんとの扱いの違いを見ると、ちょっと困ってしまう。九段くんが私を親しく思ってくれているのはわかっているが、私のためにやや相談役としての立場で職権乱用してしまっているのではないか。

――何か問題があっても、私にはどうもできないので、なおさら不安だ。


「家政婦をやりたいって言い出したのは私ですけれども、九段様に無理をさせているなら申し訳ないし、まるで特別扱いのようにされると勘違いしちゃいますよ。周りも、私も」


そんな私のぼやきを、ハルさんは顔色ひとつ変えずに受け止める。


「椿さん、今更ですか?」

「……えっ」

「ふふ、椿さんは相変わらず少し鈍いですね。九段様が貴女を特別扱いしているのは勘違いでもなければ、気のせいでもありませんし、今に始まったことでもないですよ」

「それって、どういう?」


彼女の言葉の意味がつかめず、首を傾ける。ハルさんは、なんだか呆れたように微笑み、私の肩を叩いた。


「九段相談役はこの帝都ではそれなりに信用を得てます。椿さん関係の話を少し強引に通したくらいでは、どうにもなりませんからご安心を。それにその服、私もとてもお似合いだと思います」






×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -