7 人波に逆らって、炎のあがる方へと進む。 危ないから逃げるように、と呼びかける声を無視して、私は燃え上がる建物のすぐ側までたどり着いた。 消火活動は既に始まっていたが、現代のように消防車が普及しているわけではない。 私はただ、炎を見つめていた。噎せるような煙の臭い、そして熱気。ざわめく周囲の声。全てを前に”懐かしい”という気持ちが心を占める。 あの夢の中の「赤」が、燃え上がる眼前の炎と重なる。あと少しで、後少しで何か思い出せそうだと思った。失った記憶に、今一番近づいている、そんな気がした。 が、思考は背後の悲鳴に遮られる。 「あの中に、あの中にうちの子が…!」 「だめだ、今入ったら危険だ!」 「で、でも…!あの子が…!」 炎の中へ駆け寄ろうとする若い女性を、周囲の男たちが押し止めている。女性は泣き崩れ、誰か助けて、と繰り返しすすり泣く。 彼女の子供が取り残されているのは火の元になった建物の、その隣の長屋らしい。まだそちらは全ては火が回っているわけではない。だが時間の問題に思えたし、今にも崩れそうだった。 ――と、建物の中に動く姿が見えた。 「だ、誰か!誰かあの子を…!」 ――誰か、誰か助けて…! 女性の悲鳴に、脳裏で別の声が重なる。その声に、私の身体は無意識に動いていた。急き立てられるように、影の動いた方へと。 「お、おい君…!戻りなさい!」 止めようとする男の手をすり抜けて走り出す。 水を被って、気づいたら建物へと入っていた。 |