萩尾家のハルさんに次に会ったのは、それから数日後のことである。彼女は私を見るなり、なんだか複雑そうな顔をして切り出した。


「椿さん、縁談を受けられるそうで」

「ハルさん話が早いですね…」

「昨日、駒野の奥様がいらしたときにお聞きいたしました。奥様、張り切っていますね」


ハルさんの言葉に、苦笑する。お世話になっている駒野の奥様がそれほど喜んでくれているのなら、頷いた価値はあったのかもしれない。
散々悩んだ挙げ句に、下した私の決断だった。今一番何がしたいかと、考えた時に思ったのは、千代ちゃんや九段くんの成長を見届けたいということだったのである。


「でも一度、会ってみようかなって、それだけなんですけれども。奥様も、会うだけでもと、いいますし…まだ決まったわけじゃないんです」


縁談相手は、どうやら駒野の御店のお客様らしい。以前、私が千代ちゃんを世話しているところを見かけて好意を持ってくれたらしい。私よりはやや年上だけれどもなかなかの御仁だとか。
引っかかる点がないわけではないけれども、奥様の顔をたてる意味でも一度受けることにしたのだ。もし嫌なら断っても良いと、いわれている。

でもちゃんと席を設けてもらうのだ。余程の理由がない限り、断るのは難しいだろうという気はしていた。きっとハルさんもそれは、思っているだろう。


「このまま、駒野家でお世話になるにもいかないし…」


なんて言い訳のようにつぶやきながら、目の前の彼女はどうなのだろうかと思う。そういえばハルさんは、縁談とかはないのだろうか。まだ独り身である筈だが、美人だし仕事はできるし、縁談なんていくらでも来そうなのに。
聞くにも聞けないなあと思っていたら、ハルさんはなんだか微妙な顔で言った。


「九段様が寂しがりますね」

「我がどうかしたのか?」

「あら、九段様。お勉強は終わったんですか?」

「休憩にする。椿が来ているなら、ハルも我に教えてくれたらいいのに、ずるいぞ」


突然現れた九段くんが、自然な動作で私の手をぎゅっと握った。




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