ハルさんとのその昼間の会話ではピンとこなかったのだが、そういう話は思いもよらず身近に転がっていたらしい。


「千代にも、もう少し大きくなったら、しかるべき相手を見つけないとね。世間では職業婦人だとかなんとか増えているらしいけれども、千代にはお嫁に行って幸せになってほしいわ」

「はあ…そういうものですか」

「ええ、駒野家にふさわしい殿方が見つかれば良いのですけれども」


奥様との会話の中で、ご近所のお嬢さんが次の春にお嫁に行くのだと聞いた。その子とは時々顔を合わせる仲だったけれども、まだ女学校に通い始めたばかりの印象だった。どうやら、女学校を辞めて嫁入りするのだとか。
すっかり忘れかけていたが、ここはまだ大正時代なのだ。それが当たり前、と聞いて、改めて吃驚してしまう。婚姻適齢期は、私がいた時代よりも全然低いし、働く女性も驚くほど少ない。私のような侍女ならそこそこいるものの、嫁入り修行に近いものがあるのだろう。
自分の常識とのギャップを再認識していると、奥様は私を見つめた。


「椿さんは、いくつになるのかしら」

「恐らく…今年で、19歳ですね」


ここへ来た時、17歳の高校生だった(たぶん)ので、そこから二年たった今はそういうことになるのだろう。ちなみに誕生日は覚えていないので、満年齢はわからない。相変わらず困ったものである。
曖昧に答えた私に、しかし奥様はその辺りは気にならなかったらしい。私の年齢にうんうん、と頷いたかと思えば、驚きの提案をしてきた。


「ねえ、もし良かったらなのだけれども。私に、貴女の縁談のお世話をさせていただけないかしら?」

「縁談…え…私の、ですか?!」

「ええ、そうよ。実を言うと少し前から考えていたの。貴女も良い年だし、それにね。貴女のことが気になるとおっしゃられている方がいて」

「え…っと…?」

「お見合い、してみないかしら」


お見合い、縁談。
寝耳に水過ぎて、すぐにはその単語を認識できなかった。だけれども、大変な話が自分に降りかかってきたことだけはなんとか、わかった。





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