「千代はまた、寝込んでおるのか」


萩尾家へ用事で訪れた時にばったり会った九段くんに、千代ちゃんが今日は外へは出れないと伝えたら、彼は心配そうに眉を寄せた。


「さぞかし、つらいのだろうな…」


ぎゅっと、胸の前で手を握り合わせて呟く九段くんは、まるで彼が苦しいかのような表情を浮かべる。本当に千代ちゃんのことを心配してくれているのだと、私は彼の優しさに心打たれる。
九段くんは、千代ちゃん以外にあまり親しい友人はいない。だからだろうか、千代ちゃんが寝込むのはそう珍しいことではないけれども、誰よりも心配するのである。それは彼の優しさなのだろうか。それとも、もしかして。
私なりに頭を働かせて、九段くんが千代ちゃんへのお見舞いの品を取りに行った隙に、彼の背後に立っていたハルさんにこそっと耳打ちする。


「あの…ハルさん。もしかして九段様って、千代ちゃんの事を好いていたりするのでしょうか」

「まあ、椿さんにはそう見えるのですか?」


ハルさんは驚いたように目を見張り、それからあきれたように私を見下ろした。


「え、違いますか…」

「…椿さん、本当に鈍いですねえ。九段様が哀れです」

「え!?」


どうやら、ちょっと違ったらしい。
でももしかしたらそういう可能性もあるのではないか、と思うのだけれども。使用人の分際でそんなこと勘ぐるものではないけれども、でも、千代ちゃんと九段くん、なかなか並んでいるとお似合いだと思う。二人並ぶとお雛様みたいに可愛い。
なんて勝手なことを考えていると、ハルさんは私に投げかけた。


「椿さんはどうなのです?好いている殿方とかいないのですか」

「私?いないですよ。そんなこと考えたこともないし、作る予定もないし」


第一、この二年間は生きるのに必死だった。そして未だに私は記憶喪失のままで、異世界から来た怪しい女には変わりはないのだ。だから、好きな人がどうとかは全くといって考えたことすらなかった。
そう伝えるとハルさんは、なんだか気の毒そうに目を伏せた。


「でも、そうは言っていられないかもしれないですよ」





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