初めて椿に関しての夢を見たのは、彼女を拾ってしばらくしてからだった。丁度、駒野家からの誘いが来たあたりである。

夢の中で、椿はただ一人立っていた。今との外見はほとんど変わらない。ただ、その服装だけが見覚えのない洋装だった。
幼い九段には馴染みはなかったが、黒い足首まであるスカートに襞のついた白いエプロンを着けたそれは、西洋の使用人が着用する、いわゆるメイド服というものである。
彼女はなんだか、悲しいような、それでいて苦しいような表情を浮かべている。けれどもその口元は固く閉じられていた。

彼女の背後には何もない。ただ黒い闇が広がっていた。
しばらくそうしてこちらを向いていた椿は、一回目を伏せると背後の闇へと足を踏み出す。

夢を見る九段は、あっと、彼女を引き留めなければと思う。でもこれは、夢。九段自身は眺めているしかない。

ただ、九段と同じように思ったのか、彼女を引き留めようとする影があった。姿の判別は着かない。背の高い男は、椿へと手を伸ばし、そして――

そして、夢は終わる。

椿に関しての夢は、ただこれだけだった。
一度ではない、この二年間、何度か夢に見た。そして目覚める度に、九段の心臓はうるさいくらいに早鐘を打っていた。

(こわい)

そう思った。これは怖い夢だ。でもただの夢ではない。いつか椿の身に降りかかる現実なのだ。

(あの闇へ、椿を行かせてはならない)

そう思うけれど、どうすれば良いのかわからない。
それに、椿に手を伸ばすあの男。――今のところ椿には特定の想い人はいないようだが、一体誰なのだろう。
そのことを考えると、なんだか胸の奥が重くなるのだった。




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