傾き掛けている萩尾家に当たる世間の風は、冷たい。没落しかけの元公家。萩尾の家に関わるメリットは正直、一族の中の者でさえあまり思いつかない。使用人もこの数年で減るばかりで、まだ財力はそれなりにあるものの今の状態では仮に帝都に重大な変異が起こったとしても、政府との交渉は上手くいかないのではないかと思う。

あの予言さえなければと、一族の中には言う者もいた。でも星の一族として、あれは決して内に秘めておくべきではないという当時の当主の判断によるものだった。
九段には、どちらが良かったのかはわからない。でも、先代がいかに苦しんだのかということは何となく感じられて今の状況を先代のせいにはしきれなかった。

――「もう失われた能力だから、これ以上のことは分からない」

今でも予言について問いつめてくる者たちには、そう答えるように萩尾家では決められている。
その返答に、古い伝承について知らぬ者は「やはり予言は眉唾」という判断を下し、かつての星の一族を知る者は「かつての名家も没落した」と匙を投げた。

冷たい謗りの数々を享受し、それでも萩尾は口を噤む。
これ以上の混乱を避ける為には決して知られてはならない。星の一族の能力は失われた――この事実は、偽りであることを。

星の一族の継承権は、年齢や血筋に寄らず、その力を持つか否かで決められる。九段は数代ぶりに力の濃く顕れた子で、だから生まれた時からもう当主の座は用意されていた。幼いながら亡き先代に代わり、事実上の当主として扱われているのもそれ故である。

皆が予言と呼ぶものは、夢に顕れることが多い。九段も例に漏れず、そのタイプであり、これまでにも何度となく先読みの夢を見てきた。
だから九段は、千代がいずれ龍神の神子として選出されることも、予言がそう遠くない未来に起こることも分かっていた。
だがそれを、一族の人間を含めて、誰にも言ったことはない。垣間見た、神子として働く千代の年齢からだいたいの時期もわかる。ただ今は、その来るべき日に向けて技を磨くしかない。

それだけではない。周囲の人間についての、ちょっとした先のエピソードについても予言として頻繁に現れる。

(我は、少しずるをしているかもしれない)

なんて頭を悩ませることも少なくはない。先を知ると言うことは、存外つらいことなのだ。分かっている運命を、分かっているのに回避することはできない。
でも、だからこそ悲しい未来を見たときは心を落ち着かせるしかないと幼くして学んだ。

そうやって、九段は十二年間、生きてきた。まだ少年と呼ばれる年齢でありながら、既にあらゆることを割り切って。
だけれども、ここに来てその九段の価値観は揺さぶられている。

椿のことだけは、わからない。
例の予知夢も、椿の前では未知数なのだ。




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