6 ”星の一族には未来を見る力がある”――そんなことが世間で騒がれるようになったのは、何年か前のことらしい。 当時の星の一族の長、つまり先代は、ある時から世間に対して活動的に働きかけるようになった。星の一族が世間に対して大々的に表に出てくることはそれまでなかった。だからこの時、神子の伝承とともにその名は知れ渡ることになったのだ。 先代は、星の一族の”未来予知”の信憑性を高める為に、次々に予言を的中させていった。そして――最後に、帝都滅亡を予言したのだった。 それは数年前のことだ。 この予言に世間は大いに騒いだ。京にある萩尾邸には連日人が押し寄せたのだという。そのような中、先代は逝去。そして星の一族は予言の力を「もう失われた力」なのだと発表した。 そんな予言が人々の記憶から薄れつつある昨今。急にまた話題に上ったのは果たして何がきっかけだったのか。それは定かではないのだが、この頃どうもまた星の一族を取り巻く状況は騒がしい。そんなことがあり、駒野家も萩尾家とこの数日連絡がつけられなかったのだった。 「一体、いつその未来がくるのか、ざっくりとでも分かればいいのに」 「そうですね。でも、分かったら分かったで厄介だとは思いますけれども」 「それもそうか…」 もしかしたらその未来は、明日かもしれないし、100年先かもしれない。先程のハルさんの言葉通りだ。せめて、九段くんが大きくなってからくれば良いと思う。まだ彼は、世間の荒波に揉まれるには幼すぎるのだから。 (遠い先、かぁ) 不意に、脳裏に今朝の夢が蘇る。 赤い世界に私一人。未来の感じられない、あの赤。 (私はその頃――予言が現実になる頃は、どうしているんだろう) 胸に掠めたのは、不安か、それとも。 (…いけない) 考えてはいけないと、頭で警鐘が鳴り響く。きっと、良くない。それでは意味がない。私がここに居る、意味が――。 問題を先送りするように、きつく瞼を閉じる。 まだ大正12年は遠い。 160131 |