私の朝はそこそこ忙しい。身支度をささっと終えて、朝餉の支度。軽い掃除。洗濯物の準備。それから、かわいい私のお嬢様の身支度。
駒野家で働き始めてから2年。私の仕事はお嬢様のお世話だ。彼女を起こして世話を焼き、就寝までの丸一日、殆どを彼女と過ごす。大変ではあるが、お嬢様がすくすくと育っていく姿にはやりがいを感じ始めている。
お嬢様こと千代ちゃんは、今年で十になる。


「椿お姉ちゃん、かわいくして?」


着替えが終わり、顔を洗い終えた千代ちゃんは手鏡と髪留めを両手に私を見上げる。かわいいらしく首を傾げる彼女のお願いを、もちろん断れはしない。


「どうかな。千代、かわいい?」

「はいはい、今日もかわいいですよ」

「ほんとう?」

「はい。お嬢様は私の自慢のお嬢様ですから」


千代ちゃんの髪の毛を左右二つに分けて結い、そこへリボンを巻き付ける。その様子を両手で持つ手鏡で見つめながら、私の返答に、満足げに千代ちゃんは顔を綻ばす。
毎朝の光景だ。いつものやりとりに、苦笑気味にお母様――千代ちゃんのお母様は言う。


「全く千代は、椿さんにべったりなんだから。椿さんは貴女付の侍女ですが、千代がいつまでもそんなことでは迷惑ですよ」

「奥様、私は困りませんよ。千代お嬢様のお世話は私の生き甲斐ですから。でも確かに――お嬢様、素敵な女の子になるには私に頼ってばかりじゃだめかもしれませんね」


千代ちゃんは、私をじっと見つめる。ぎゅうと、私のエプロンの裾を掴んで、力強く頷いた。


「うん…千代、頑張る。椿お姉ちゃんみたいな、お姉さんになりたいもの」

「まあ…嬉しいけれど、私なんかよりもきっと千代ちゃんは素敵なお姉さんになれると思うわ」

「そんなことないもん!千代、お姉ちゃんみたいなのがいい!」

「ふふ、本当に。千代は椿さんが大好きなんだから」


こんなかわいい子に懐かれて、嬉しくないわけがない。でも、全く私は千代ちゃんの言うような「素敵な大人」である自信はない。千代ちゃんより多く生きている分、できることが多いだけ。

しかも千代ちゃんは同年代の子供たちの中では、しっかりしている方である。もう少し甘えてもいいくらいだ。それは、千代ちゃんのお母様も十分承知だろう。
でも千代ちゃんは、身体の弱い子だ。私が駒野家で勤めることになったのも彼女の介抱が原因だったけれど、それだけではない。この二年千代ちゃんは、幾度となく同じような発作を起こしている。大きくなるにつれて、以前よりは体力も付いてはいるだろう。でも、決して楽観視はできない。

だからこそ、甘やかしてやりたくもあるし、同時に強く育ってほしいとも思うのだ。






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