それからの話は、早かった。私は駒野家に住み込みの侍女として置いてもらえることになり、翌日には仕事を始めることになったのである。


「良かったですね椿さん」

「ハルさん!色々お世話になりました!それに、駒野さんの家に私のこと話してくれたのも、ハルさんだったと聞きました。本当に、ありがとうございます」

「いえ、私は萩尾のご主人から聞いたお話に、貴女がぴったりじゃないかと事実を申したまでですから」


身の振りに悩んでいた私の問題は、このお陰でほとんど解決したのだ。記憶は戻ってないとはいえ、あとはこの世界でゆっくり過ごしながら、記憶が戻るのを待つべきだろう。

それに次の居場所は駒野家。駒野家がとても良いお家だということは折り紙付きであるし、なによりここ萩尾家のすぐ隣だ。最初に親切にしてもらった萩尾家の目と鼻の先というだけで、安心感がある。


「九段くんも。お世話になりました。九段くんが拾ってくれなかったらどうなっていたか…私の、恩人です」


しゃがみ込み、小さな彼と視線を合わせる。
九段くんは、嬉しそうに笑み、しかしちょっとだけ元気がなさそうだった。どうしたのかな、と顔をのぞき込むと、ぼそぼそとつぶやきが聞こえる。


「でも、椿が出て行ってしまうのは少し、寂しいな」

「!!!」


かわいい。めちゃくちゃ、可愛らしい一言だった。つい、きゅんとして抱きつきたい衝動を抑えつつ、私は九段くんに笑いかけた。


「九段くん、お隣だからいつでも会えるよ。それに、私こそまた九段くんとお話したいな。どう?」


九段くんはそれを聞くと、何度も大きくうなずいた。


「うむ!そうだな!楽しみにしておるぞ!」




(――これが私の、数奇な運命の、はじまり。)



151123



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