にこやかに手を差し伸べる駒野のご主人を前に、私は間抜けにぽかんと口を開けてしまった。何かの冗談かと思った。でも奥様も、侍女さんたちもにこにこと私を見ているし、どうやらかわかわれているわけではないらしい。


「え、私ですか?!事情はわかりましたけれども、そんな大役、私に勤まるとは思えないの、ですけれども」

「私たちはそうは思わないよ。確かに経験はないとは思う。でも仕事は、追々覚えてもらえればいい。大切なのは人となりだ。それとも、この話は君にとって迷惑なのだろうか」

「いえいえとんでもないです!とっても申し出はありがたくて嬉しいんですが、でも私、身元も不確かで得体の知れないやつ…でして」


思わず言葉が尻すぼみになる。このあたりを自分で説明するのはなかなか厳しい。記憶喪失な上に他の世界から来た、だなんて信用が置けるおけない以前ではないだろうか。
だけれどもご主人は私の不安を吹き飛ばすような、笑顔すら見せながら続けた。


「ああ、そのあたりは聞いているよ。先程も言っただろう、萩尾さんのご主人や奥方から君の話は聞いていたんだ。なんでも、千代が最近懐いている女性は身よりがないと。それで、手前勝手ではあるが実は、君には元々この話をしようと考えていたんだよ」

「えっ!」

「この一件で、確信した。君なら安心だ。お願いできないだろうか」


と、改めて彼は私に手を差し伸べる。
ここまで言われてしまっては、断る理由が見つからなかった。それどころか、この話は今の私にとっては願ってもないことなのである。意を、決する。私は、その手を握り返した。


「私でよければ。どうか、よろしくお願いします!」





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