5 そんなわけで、私は記憶が戻るまで、積極的に色々なものや人と関わるようにとの結論がでたのだけれども。 (とはいえ、このままっていうのもなあ…) いくら記憶がないとはいえ、いつまでも萩尾家にお世話になっているのもどうかと思うのである。数日過ごしてみて、どうやら簡単に元の世界に戻れるわけでも、記憶が戻るわけでもなさそうだとわかった今、どうにかこの世界に適応していく必要があるだろうと強く思った。 (私にできること、が何かあればそれを生かすのが一番なんだろうけど) 私の記憶には、大いにむらがある。全くすべてを忘れてしまっていた方が、まだ話は単純だったかもしれない。そうでないから厄介だ。 前の世界での生活常識は覚えているので、この世界との相違もなんとなく感じる。どこ、とピンポイントで答えるのは難しいものの、ここでの暮らしの中でなんとなく違和を感じることは多々あるのだ。 ただ、自分のことになるとさっぱりだった。私の名前が宮本椿で、17歳の学生で、神隠し経験がある。文字通りそれしか、わからない。どんな学校に通ってたのか、家族はどんな人だったのか。趣味や趣向、積んできたはずの17年分がまるまる、抜けている。ただ設定として「17歳学生」というワードだけが頭にあり、深く考えていくとそれすらも本当に正しいのか曖昧になりそうで、たまに怖くなる。 ただ、きっと私はとてもお気楽な質なのだ。いくら記憶がないといっても、染み着いた性質というやつはなかなか変わらないだろう。だから今も置かれた状況にしては緊迫感がないというか、どうにかなるだろうという脳天気な気分になっている。 ハルさんや九段くんにに言わせると、「そういうところが危なっかしくて放り出せない」らしいが。 九段くんといえば、彼もなかなかの天然くんである。 変わった子だなあ不思議ちゃんなのかなあと疑ってはいたけれど、ここに来てそれは疑いようのない事実として明らかになりつつあった。 九段くんは年の割にはしっかりしているし、賢そうだ。だけれども年の割に幼い純粋な面も強い。 色々な危機に面しているはずの私よりも、大人びた憂い顔を見せる千代ちゃんを眺めながら、彼女の方が九段くんより余程しっかりしているのだろうなと心の中でうなずいた。 |