平家の軍師


※もしもあかりが時空移動の際に、平家陣営に飛ばされていたら。そのまま将臣EDに突入していたら。




有川と、このような関係になったのは、ある意味必然だったのかもしれない。


「悪いな、巻き込んじまって」


苦笑する有川に、私も苦笑で返す。でも、今更のことである。私たちは互いに気心の知れた仲で、このようなやりとりはいつもの延長線上でしかない。

(いや、こうなったってことが昔から考えたら驚きか…)

有川とは、向こうの世界に居た頃からの知り合いだ。友人としてそこそこのつきあいもあった。でもこうして行動を共にすることになるとは、思いもしなかったことである。ましてや、異世界で。
私は有川の隣を歩きながら、彼の顔を見上げた。


「元々、平家ってそんなに嫌いじゃなかったんだ。滅びてしまう悲しい一族で、助けることはどうしてもできないから、平家物語は切なくてなかなか好きとは言い切れなかったんだけど…でも、助けられるなら別だよ」


だから、と続ける。


「まさかこんなことになるとは思わなかったけど、チャンスだと思ってる。有川がいれば、きっと大丈夫じゃないかとも思えるしね」

「なんだよそれ」


有川は、カラカラと笑い声をたてる。その顔を見つめながら、ふと、気になっていたことを口にした。


「でも、春日さんじゃなくてよかったの?私には、春日さんみたいな特別な力、ないし…」

「望美には譲がついている。心配する必要はないさ」


それから、有川はすこし顔を逸らした。


「それに。俺が今守りたいのは、菅原の方だよ。…わざわざ、言わせるなよな」


照れたように付け足されたその言葉に、どきりとした。有川は私のことをどこまでの関係だと思っているのだろう。実は、はっきりと確認したことはない。平家ではすっかり、恋仲みたいに思われているけれど。実際、どう思っているのだろうか。
火照る顔をごまかすように私はうつむく。有川は男前だ。そんなことを真顔で言われたら、照れるしかない。






「それじゃあ、俺いくわ。」


春日さんたちにお別れをいいたいからという彼について、私は勝浦での春日さんたちの滞在地へついていった。春日さんたちには、私が元の世界から来た人間だと言うことはいっていない。ただ、今の有川と行動している者のうちの一人として紹介されていた。何度か平家の連絡を伝えるために、この神子一行のところへ顔を出す機会があったので、すっかり顔なじみではあった。

一通り挨拶をすませたところで、一人の男性が、にっこりと笑顔を向けた。


「道中気をつけてくださいね、将臣くん。近頃は怨霊が増えていますから。女性同伴だとなおさら、気を使うでしょうし」

「そうだな。心してかかるよ。女子供も襲われるっつーのが質悪いよな」


しれっとした顔で同意する有川に、彼――弁慶さんも、大きく頷く。それから、ちらりと私に目を向けて、何気ない風に続けた。


「ああ、女性といっても近頃は怨霊を平気で使役するひとも居るみたいですけれどね。平家の軍師、と呼ばれるひとが、戦場では活躍しているだとか」

「そいつはおっかねーな…それじゃあ、また」

「ええ、また」


――冷たい視線が、私を鋭く突き刺す。

平家の軍師とは、私につけられた渾名である。自ら名乗ったことはないが、いつのまにかそう呼ばれていたのだ。わざわざこのタイミングで、持ち出すような話でもない。だが自然に彼はこの話題を出し、…私たちの反応を見たのだろう。


「行こうぜ、あかり」


有川に手を引かれ、私たちは彼らたちの宿を後にした。
どくどくと、鼓動が早まる。なんだか、怖い。あの柔和な表情の男を、恐ろしく思った。鎌を掛けられた…つまり、気づかれている可能性が高いということだ。


「ねえ、有川、やっぱり…」

「ああ。疑われているのは間違いねーな。それに弁慶、だ。あっちの素性はもう、確定と見ていいかもしれねえ」


有川は、苦々しげに呻く。
最初に弁慶と聞いた時に、疑いはしたのだ。彼らがかの――義経一行ではないかと。でも偶然かも知れないと判断を保留にしてきた。それは弁慶を初めとする彼らの風貌が、あまりにも史実と違うことにあった。
けれども。

――あれは、強敵だ。

未だに、彼の視線が頭から離れない。ざわざわする心を落ち着けるために、私は、握った手に力を込めた。


「有川、きっと守りきろうね」


返事はない。
けれども、握られた手の温もりが、彼の気持ちを物語っていた。



150614
将臣ルートでした。容赦なく源氏と戦いぬきます。弁慶は強敵。リクエストありがとうございました!




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