六、弁慶さんと私 時空を越えた先は、元通りの私の世界だった。時間もほぼ経っていなかったようで、望美ちゃんに涙目で抱きつかれたのは記憶に新しい。 無事、戻ってきた世界で弁慶さんの帰りを出迎える。彼は、私の小さな時空跳躍を知らない。鬼若さんとのことは、私だけの大切な思い出と、心の中にしまっておこうと思う。 ――思った、のだけど。 「お帰りなさい、弁慶さん」 「ただいまあかり。…ようやく、君は僕の隣に戻ってきてくれましたね。待ちくたびれました」 弁慶さんは微笑み、私の腰を抱く。突然のこの彼の行動に、私は勿論戸惑い、彼を見上げた。 「え?一体何を、」 「何を言っているんですか、は僕の方ですよ。僕はずっと、この日を待っていたというのに。――ずっと待っていると言ったのは、君の方でしょう?」 その言葉に、私ははっとした。もしかして、まさか。それは少し前、私が鬼若さんに行った言葉である。動揺に言葉をなくす私に、弁慶さんは溜め息交じりに笑う。 「今更になって思い出すなんてね。あの頃からずっと、決めていたのに。先程、望美さんにあかりが大変な目にあったのだと聞いて…ようやく思い出したんです」 優しく抱きよせられる。 「次に会ったら決して、離さないと」 そして彼は、私の額に唇を落とした。彼がまだ鬼若さんだった、いつか遠い日に私がしたように。 「あかり――やっと捕まえた」 幸せそうに笑う彼を抱き返し、思う。 あの小さな冒険はようやく幸せを掴んだ彼への、白龍からの贈り物だったのかもしれない、と。 150211 弁慶さんお誕生日おめでとうございました! |