帰り路の決意


学校の友達の驚いた顔が忘れられない。きっと携帯電話には、私と彼の関係を問うメールがいくつも入っているだろう。確認するのが億劫だ。
でも、それでも、弁慶さんのお迎えはかなり嬉しかった。突然のことにびっくりしたし、気恥ずかしさもあったけれど、見目麗しい最愛の恋人がわざわざ会いに来てくれて嫌なわけがない。

(私より大きい手、ちょっと冷たい)

自然な流れで繋がれた手、絡められた指に体温が上がる。改めて、この人と両想いになったのだと、その事実に胸がいっぱいになる。こうして恋人らしく並んで歩くのは初めてではない。二週間前、想いが通じた時から弁慶さんは私に隣の位置を許してくれている。むしろ、それが当たり前のことであるように、私を隣へ据えてくれる。
けれどこそばゆさに、私はつい逃げ腰になる。素直になりたいのに、なれない。でもそれを見逃してくれるような人じゃないから、翻弄されながらも、私は彼の愛情に甘えてしまうのだ。

(でも、だからこそ、不安が、拭えない)

彼と私は、不釣り合いではないのかと。

(本当に、私でいいの?)

彼の私への気持ち、それを疑うわけではない。でも信じることも、出来ないでいる。私の存在は、あの世界のあの状況では特別だったかもしれない。でも、やはりただの女子高生でしかないのだ。それを、ここへ戻ってきて痛感している。
今隣を歩く弁慶さんは、どこから見たって素敵で魅力的な男性だ。道行く女性が振り返るのが、わかる。


「何、呆けているのですか。僕に見惚れているなら大歓迎ですが、どうやらそうではないようですね」


急に振り返った弁慶さんに言われ、はっとする。


「え……あ、あの、ちょっと考えてて。何で今日、弁慶さんは学校に来たのかなって」

「何って、お迎えですよ。言ったでしょう。それにあかりは、望美さんに呼ばれているのでしょう。帰る先は一緒です」


繋いだ手を強く、引き寄せられた。弁慶さんは目を細め、咎めるように私を見つめる。それは恋人になる前の彼を彷彿とさせる表情だった。


「君と離れている時間が、惜しい。帰り路だけでも君を独占したいという男心を、わかりなさい」


相変わらず、私に対する口調はどこかぞんざい。それでも以前ならなかった、甘い言葉の羅列に私の鼓動は早くなるばかりだ。
弁慶さんとの関係は変わったけれど、やはり以前の彼のままで。それに安心するような、ちょっと残念なような、感情が落ちつかない。

でも、思うのだ。
この平和な世界でもまた、彼が自分を選んでくれるのなら。
私は心も身体も未来も全て、彼に渡してしまおうと。


141130



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