彼女への想い


「べ、弁慶さん…!な、なんで急に…!というか、何故先に言ってくれなかったんですか…!」


昇降口から校門を出るまで、赤くなったり青くなったり忙しなく表情を変えていたあかりは、人気のない道に入った途端にこちらを見上げて言った。
僕が突然学校へ迎えにきたことに、余程動揺したらしい。だが、半分以上照れ隠しだと一目でわかる。そわそわと、身の置き場に困るように挙動不審を繰り返すあかりは、見ていてなかなか楽しい。

(しかし…なかなか慣れませんね)

あかりの挙動不審は、自分からの恋人扱いへの戸惑いによるものである。彼女と互いに気持ちを認めあってから、早二週間。だがあかりはなかなかその状況を信じ切れずにいるようだった。

(少し、いじめすぎたかな)

今となっては、素直になれなかった自分がやや恨めしい。でも、あんなに冷たい対応をしていたのにあかりは僕を信じてくれた…その事実に愛おしさが増しているのだから仕方がない。我ながら疑り深い性格であることは承知なので、致し方ないことだったといえるだろう。

(僕の想いは、きっと半分も伝わってないのだろうけど)

本当は、彼女以上に余裕はない。今だって、向こうに居た頃とは違う装いの彼女を新鮮に思って、どきどきしているというのに。


「言ったら君は、反対するでしょう?それに僕は、君の自然な学生姿が見たかったんです」


むくれる彼女に顔を近づけ、それから耳元に囁きかける。


「制服、可愛らしいですよ。よく似合ってます」

「ひいぃなんですか、藪から棒に…!」


妙な奇声を上げて彼女は、耳を抑えた。あかりが真っ赤な顔で僕を凝視しているその隙に、彼女の鞄を攫う。あかりはすぐに、慌てたように鞄を追い掛けた。


「いっ、いいです!重いし、自分で持ちます!」

「いいから。貴女にはこっちをお願いしたいんです」


と、空いた彼女の手を握る。自分より小さなそれを包み込むようにして、熱を分け合った。あかりは一瞬身体を強張らせたものの、振りほどく様子はない。照れたように顔を明後日へ向けながら、僕の隣を歩く。

傍から見ればきっと、僕たちは普通の恋人同士に見えるのだろう。

(かつて心中した愚かな軍師とその補佐なんて、ここには、いない)

この世界へ来て、改めてわかった。彼女は本当に、とんでもない犠牲を払って僕を追ったのだと。
あの世界で、あかりの足がどこか地着かずに感じたのは仕方のないことだ。ここと向こうは、あまりにも違う。いずれ帰れるのならば自分の力を試したい――そう思うのも当然だ。
しかしあかりは、この世界と僕を天秤に掛けた。そして僕を選んだ。

(愚かな選択だ…そんなだからあかりは、僕のような悪い男に捕まる)

幸せにすると誓う。でも僕と歩む道は、きっと平坦なものではない。今更手放すことなど、できない。

(僕には、正念場かもしれない)

あかりは自分に惚れている。でもそれでは、足りない。彼女を後悔させない。もう一度、僕を選ばせる必要がある。
我儘にも――この平和な世界で、やはりあかりは自分を選んだという事実が欲しいのだ。

まだ、機嫌のわからないこの束の間の滞在期間。あかりの心を、確実に捉えければならないと、じりじりと心が急いていた。


141115



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