それすらも演技で


私、雪村千夜は、南雲薫と雪村千鶴の従姉妹である。それは今朝、校舎前で宣言した通りである。


「千夜お姉ちゃんは、ずっと海外に住んでいたから、会うのは数年ぶりなの」


可愛らしくそう告げた千鶴に、周囲の男たちは未だに驚きを払拭出来ない様子で、何度も私と千鶴の顔を見比べていた。

もう少し具体的に説明すると。私は、千鶴と薫の実の母親と血筋の繋がりがあるのだ。彼らの母と私の母が姉妹の関係であり、その為に私たちは従兄妹同士だった。
薫と千鶴の元の姓は、私と同じ「雪村」である。しかし雪村家というのは中々に複雑な家で、二人の母も私の母も、共に婿を取って雪村姓を継いでいた。
二人の両親が亡くなった時、千鶴はそのまま雪村の遠い親戚だった綱道さんに引き取られた。しかし薫は、別に繋がりのあった南雲家に引き取られた。だから彼らは双子だけれども姓が違うのだ。

本当は、二人の身寄りが無くなった時に、うちで引き取りたかった。だけども、私の両親も厄介な事情を抱えており、その当時から海外生活をしていて対応が遅れたのだ。それに私自身、ちょうどその一時期、両親の元を離れて日本で知り合いの家に世話になっていた。そういうどうにもできない状況が重なった結果、二人がばらばらになってしまった。


「私は、千鶴と薫を離れ離れにしてしまったことを、後悔してるんです」

「お姉ちゃん…、もうその件は良いよ。私、今幸せだよ?薫とだってこうして再会できたもの」

「それは、分かっているわ。綱道さんも良い方で、感謝してる。南雲の家だって、悪いところではないわ。問題は、この学園でのことよ」

「姉さん、本気で行く気…?」

「ええ、それが私の目的だから」


放課後である。私は、薫と千鶴に校内案内を頼んでいた。千鶴と仲が良いという藤堂くんや沖田くん、薫の先輩である斎藤くんも同行し、それなりの集団となり校内を歩いている。
ひと通りぐるりと回った後、私は薫にある場所へ案内するように頼んでいた。先導する薫は、やや躊躇うようにしながら足を進める。
話の流れで私たちの関係の話になり、そして私の目的の話になる。その目的について、私は千鶴に明言はしていなかったが、薫の向かう方向、そして私の言動から察してしまったらしい。


「まさか――千夜お姉ちゃん!それは、止した方がいいよ!」


さっと顔色を青ざめさせて、千鶴は私の腕を掴む。それを、やんわりと押し返した。


「いいえ、事情はお千から聞いているわ。これ以上、千鶴に雪村のことで苦労を掛けたくないの。それが、雪村を継ぐ者としての責任だと私は思っているの」

「そんな…でも、」


千鶴が言葉を続けようとしたその時、被せるようにして低い声が廊下に響き渡った。


「なんだ、騒がしい」


私たちの向かい側から、歩いてくるのは派手な三人組。目を張る薫と千鶴。私は、頬を緩ませた。


「目的が、向こうから歩いてきてくれるとはね」


すっと、薫の横をすり抜ける。目の前にやってきた白ランの男に、軽く頭を下げた。


「はじめまして、風間生徒会長。雪村千夜と申します」


男――風間千景は私を前に、その赤い瞳を瞬かせた。


「…お前が、噂の転校生…?」

「ふふ、噂だなんてお恥ずかしい。すぐご挨拶に伺おうと思っていたのに、遅くなりました」


あくまで柔らかい口調。風間千景は目を丸くして私を眺めたが、すぐに機嫌を良くしたようにして笑う。それに笑みを返して私は、言葉をつづけた。


「風間生徒会長に、ひとつお願いがあるんです」

「なんだ、言ってみろ」

「千鶴に、これ以上近づかないでください」


にっこりと微笑む私の向かい側で、金色の麗人が、顔を顰めた。


140409



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