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「ようこそ、雪村千夜くん。君を今日から、薄桜学園の生徒として迎え入れよう!」


人柄の良さそうな男性が、私ににっこりと笑って言った。まるで、お日様のような笑顔だと思った。彼が学園長の近藤先生だとは知っていたが、薄桜学園は厳しい校風だと聞いていたので、少しだけ驚いた。でも同時に、ほっとした。このような人格者の治める学園ならば、きっと素敵な学校に違いないと。


「私こそ、お願いいたします」

「そう緊張せんでもいいぞ!うちの生徒は皆、君を快く受け入れてくれるだろう!」

「だが――覚悟はしておけ。もう聞いているとは思うが、女子生徒はお前の他に、たった一人だ」


横から、厳しい言葉を掛けてきたのは土方先生である。彼は、この学園の教頭でもあった。


「存じております」

「…まぁ、お前ならしっかりしてそうだし大丈夫だと思うが――早速この状況だ。簡単にはいかないのは、わかるな?」

「ええ…、こんなに注目を浴びるものなのですね」


苦笑して校舎を見上げる。窓という窓から生徒がこちらを見下ろしており、その視線は全て私に向けられていた。原因は、明らかだ。私が女子生徒の転校生だから。予想していたこととはいえ、こうして実際に注視されると思わず苦笑いしてしまう。

(苦労、するかもしれないわ)

想像していたよりも、ずっと。それでもこの学園に転校を決めたのは、明確な目的があるからだ。それは何よりも私にとっては優先されるべき事柄であり、その目的の前には苦労の数々など問題には思えなかった。

――と。校舎から、走り寄って来た人影。


「姉さん!」


その顔、その声は私が良く知る人物のものだ。


「薫、お久しぶりです。元気にしていました?」

「はい、僕は。姉さんも、お変わりないようで安心しました」

「ふふ、ちょっと背が伸びたのではないですか」


満面の笑みで私を見上げる彼に、つい先生方が居るのを忘れて彼の頭を撫でた。薫は恥ずかしそうに目を伏せたが、私はこの再会が嬉しくてたまらなかった。
そして、もう一人。


「お姉ちゃん?!」


こちらは、驚き顔で恐る恐る。
私は彼女に向き直る。そして、薫を撫でていない方の手で彼女の手を引いて、ぎゅっと抱きしめた。


「千鶴、元気そうでなによりです」


途端に、騒がしくなる周囲。


「はー…この騒ぎ、どうやって収拾着けるんだ…」


その土方先生の呟きに、私はようやく状況を思い出した。
はっと、周囲を窺えば、皆が驚いたように私たちを見ている。ああ、やってしまったと思うけれども、後の祭りだ。これは、私がどうにかするしかないだろう。

私は二人を離して、目を吊り上げる土方先生を押しとどめた。
それから、声を校舎から私たちを見下ろす生徒達に向って、声を張り上げる。


「皆さん、初めまして。私、今日からこの学園に転校生として編入することになった、雪村千夜と申します」


ぴたりと、訪れる静寂。
そしてもう一声、私は爆弾を投下。


「一年生の南雲薫と雪村千鶴とは、従兄妹同士なんです。よろしくお願いしますね」



こうして始まったのは、この薄桜学園での甘く楽しい学園生活ではない。私にとってはまさに戦場。大切な従兄妹を守るための、戦いなのだった。


140409



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