「いつもよりもよく喋るなと思って聞いていれば…貴女は本当に、碌なことを言いませんね」


私を見下ろす弁慶さんの口調には、棘がある。自分勝手なことばかり述べた自覚はあるので、彼からの嫌みは想定内だ。それでも緊張してしまうのは、まだ彼に少しでも良い風に見られたいと思っているからだろう。
そんな浅ましい心を見透かされそうで、目を逸らしたくなる。だけど、それを許さないのは他でもない弁慶さんだ。


「あかり、まさか忘れたわけじゃないでしょう?責任を取ってもらうという話です」

「…はい」


忘れてなんかいない。あの熊野で、全てを打ち明けた時の彼の言葉である。大事な決戦の前だからと、後回しにしてきたものの清算。どんなことでもすると、彼に誓った。その気持ちに変化はない。けれど、余裕はなかった。胸が張り裂けてしまいそうだ。
私は、罰を受ける咎人よろしく彼を見上げる。心が揺るがないうちに、処罰を下してほしいと。


「――全く、僕も自分でどうにかしていると思います。ずっと、考えていた。でももう、自分の意志ではどうにもできないことも良くわかっている」


弁慶さんは、呟いた。その意味がわからなくてそのまま続きを待つ私に、彼は強く告げた。


「僕は君を、許してやれない」


呼吸が止まるかと、思った。覚悟は決めたつもりだった。でも実際に耳にした言葉の衝撃に、苦いものが胸に広がる。
しかし次の瞬間、私は間近に感じた弁慶さんの体温に、思わず声を上げてしまった。


「べ、弁慶さん?!」


引き寄せられた身体。押し付けられた先は、弁慶さんの胸元。包み込むように背中に回された彼の両腕。
しっかり抱き込まれて、私は顔を上げることさえできなかった。強く力をこめた彼の抱擁に動揺する。すぐ側から、弁慶さんの声が響く。


「貴女は知っているのでしょう。僕の罪と咎を。僕はずっとそれを償うために生きて言きた咎人です。でも今は――貴女の方がずっと、重い罪人だ」


弁慶さんの罪と咎、それは応龍消滅に関することだ。そこには巻き込まれた多くの犠牲者、そして戦いの最中に致しなく奪った敵味方多くの命も含まれているのだろう。

私はそれを望美ちゃんの持つ神子軍記によって知り、その後、彼本人からも聞いていた。でも決して、弁慶さんが悪いわけではないと思う。あれはこの世界の流れが招いた、不幸な出来事の一環だろう。引き金を引いたのは弁慶さんだけれど、彼が引かなくてもきっと他の誰かが遠からず同じ過ちを犯しただろう。
それでも彼が、それを自分の責任と背負いこんでしまうのは、彼の優しさ故だ。

弁慶さんの言葉に驚き息をのんだのは、私よりも周囲の皆だった。私を罪人と言い切るなんて、日頃から私に対して辛辣とはいえ彼らしくないと思ったのだろう。でも私は、それを真摯に受け止めようと思った。それだけの事を私は、彼に対してしているのだと。
…だけれど彼が続けたのは、想像とはまるで違う意味合いの話だった。


「こんな僕の心を丸ごと、罪と咎ごと奪った。あかりは酷い女です。自分でそれに気付いてすらいないのだから」

「……え?」

「ほら、貴女はわかっていない。僕がどれほど君に恋い焦がれ、心乱されているのかなんて。今だって…馬鹿みたいに、緊張しているのに」


言われてはじめて、私は気付いた。胸の奥から響く弁慶さんの鼓動は、とても速い。私のそれに負けず劣らず強く響く振動は、彼が平常心ではないことを示していた。身体は熱を帯びたように火照っているように感じた。

弁慶さんの腕の力が緩む。顔を上げると、目が合った。…気付かなかった。彼は甘く熱っぽい瞳で私を見下ろしていた。


「あかり。もう僕は、君を離せない。――僕の隣で生涯をかけて、責任を取りなさい」


強く、囁かれる。
言い含めるように。祈るように。あるいは、懇願するように。


「僕のものに、なってください」


身体中が、熱い。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -