あまりに突飛な発言に、唖然としてしまったことは事実だった。

――時空を越えて、先の未来を見てきた。

なんて、非現実的な話だろう。いくら何でも、無糖滑稽すぎる。昨日の夜はいつもと変わらず、たわいのない話をしていたじゃないか。彼女は妙な夢でも見て、混乱しているだけではないのか。
…そんな風に思いながらも否定の言葉を紡げないのは、彼女があまりに真剣だったからだ。彼女の話しに驚くよりも、私は望美ちゃんの表情に動揺していたのだ。

私には、彼女が嘘をついているとは思えなかった。あまりに真っ直ぐな視線に、引きつけられていた。

どう反応したら良いか、迷う。落ち着きを取り戻したらしい望美ちゃんは、そんな私の手を握り、強く言った。


「とりあえず、私の話を聞いて欲しい」




そうして彼女は、語りだす。
長い彼女の物語を。
私の知らなかった、彼女を取り巻く運命の話を。
私と弁慶さんと、彼女の話を。





「――それで、私はあかりの手を離してしまったの。気付いたらこの時空にたどり着いていて…あかりが居たんだ」



話の締め括り。
望美ちゃんの語る物語に圧倒される私に、駄目押しとばかりに彼女は懐から包みを取り出した。


「これはあかりから…最期に受け取ったもの。私は何度も私の記憶が本物なのか、わからなくなった。あかりがくれたこれだけが、私の支えだったんだよ。今の話の証明はできないけど、私にとってはこれが、真実そのものなの」


差し出されたそれに、私は息をのんだ。

望美ちゃんが持ち歩いていたからか、古ぼけくたびれた冊子。染みのようになっているのは、血痕だろうか。表紙には、掠れて読み取れないタイトル。
それでも私は、それが何なのか、わかってしまった。


「………私、望美ちゃんの話、信じるよ」


私は、もう彼女の話を無糖滑稽だなんて思えなかった。






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