和議は、神泉苑で行われる。
神泉苑は元々、天皇のための禁苑だ。しかし何代か前の天皇により、京の人々に開放されるようになったのだ。ここは枯れない泉があり、干ばつが起きると雨乞いが執り行われる。昔、そうして京を救った少女が居たのだと言う。――龍神の神子にとっては縁の深い場所である。そう聞いている。

まさに、戦いの終結にはこれ以上相応しい場所はない。


紅白の旗がひらめく。多くの貴族や武士が参列する中、中央の後白河院を挟んで左右に対峙するのは、平家と源氏である。その中にはそれぞれの棟梁たる清盛と頼朝の姿も見えて、いよいよ和議は現実味を帯びていた。私たちは、望美ちゃんや九郎さんに用意された席から、それを見守る。

後白河院の声がかかり、いよいよ和議が結ばれようとしていた。
和議の条件を提示し、異存はないかと問われた棟梁たちは、剣呑な表情のまま睨みあう。
皆が固唾をのんで見守る中、先に口を開いたのは清盛だった。


「よかろう、源氏の――いや、源頼朝、我は約定を守る」

「こちらも異存はない」


流石に、和やかにとはいかない。しかし重々しく交わされた言葉に、傍聴していた者たちは、わぁっとさざめいた。後白河院もどこか安心したような顔で、続ける。


「和議はなった。清盛、三種の神器の返納を――」


が、途中で後白河院の表情が凍りつく。


「…うむ? 剣と鏡だけではないか。八尺瓊勾玉はどうした?」

「後白河、勾玉は、すでに失われてない」


その時である。一瞬で、空気が変わった。


「なれど、我は勾玉よりも強い力を手にしたぞ」


突然立ちあがった清盛は、頼朝を見据える。その瞳は爛々と輝いて見えた。


「和議はよかろう。だが………」


観衆は、なすすべなく清盛を見つめた。そして。


「頼朝、貴様だけは討つ!」


最終決戦の火蓋は切って落とされた。






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