北条政子。鎌倉殿と呼ばれる源頼朝の妻・御台所。彼女は単身、福原に来ていた。鎌倉殿の使者として、平家との和議について伝えるために。
妻を名代として送りだすと言う頼朝の姿勢は、彼が強くこの和議へ力を入れているのだと世間は捉えた。

…事実は、違う。望美ちゃんは経験から見知っていたし、私たちも彼女から聞いてそれに気付いていた。
和議は偽り。政子さんは平家奇襲の指揮を取るために来たのだ。

私は彼女に直接会ったことは、ない。神子どころか八葉ですらないのだ。身元不明の小娘に謁見など許されはしないのだ。
だから、この時はじめて彼女の姿をまじまじと見ることになった。

第一印象は、可憐。思っていたよりも、ずっと若い。豪華で派手な衣に身を包んだ華奢な身体には、噂に聞く、鎌倉殿に並び立つ恐ろしい女には見えない。
けれども、すぐに納得した。彼女が浮かべる表情は、外見にそぐわぬ妖艶なものだった。その言動は妙に達観しており、それが彼女を”完璧すぎて”見せた。


――これが、北条政子。


私たちは、この女性についても望美ちゃんから聞き及んでいた。鎌倉殿の御台所でありながら、人外の力をも駆使する魔性の女性。間違いなく、鎌倉殿の勢力で一番厄介なのは、彼女の存在だった。





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