京のとある屋敷。
ある貴族の所有する屋敷ではあるが、昨日より別の者が主としてやってきていた。新たな主が誰であるか、京に住む者で知らないものはいない。奥の一室に通された弁慶は、件の主を待ちながら、近頃の一連の流れに想いを馳せる。

明日、平家と源氏の和議が成立する。長らく睨みあっていた両者が今更手を取り合うということには、誰もが驚き真実を疑った。

だが、まごうことなき事実なのだ。
実現不可能と思われていたそれは、一人の少女の働きかけにより成立の直前までやってきている。春日望美は真実、京を救う神子だったのだ。

そして遂に、鎌倉から頼朝が上洛。福原からは平家の者たちが戻ってきていた。
弁慶に呼び出しが掛ったのは、和議の前日の早朝のことである。





「久しいな、弁慶」


部屋の奥から、ゆらりと現われた童子。二年ぶりに前にする彼の姿を、弁慶は笑顔で迎えた。


「ご無沙汰しております、清盛殿。まさか裏切り者にお呼び出しの声が掛るとは、思ってもみませんでした」

「相変わらず食えない男だな、そなたは」


黄泉から舞い戻った平清盛は若返り、すっかり生前の姿から様変わりしている。
弁慶は彼の生前、頻繁に平家に出入りしていた。清盛に気に入られ、信用を勝ち得ていたのだ。その頃に馴染みのある弁慶には、二年前に一度会っているとはいえ、今の清盛の姿が酷く滑稽に見える。それでも時折垣間見える生前と変わらぬ言動に、戸惑いもした。
勿論、表情に出すことはなかったが。





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