2 私が源氏軍で働きだしてから、季節は春から夏へと移り変わっていた。 三草山の戦いで、初陣を果たしたのはつい先日のこと。結局平家には上手いこと逃げられ、双方痛み分けといったような結末だった。唯一、収穫といえたのは平敦盛が八葉に加わったことだろうか。 私は弁慶さんの補佐として、徐々に仕事を覚えている最中だ。未だ雑用の域からは抜け出せないが、三草山の後からは軍記のような覚え書きも任せてもらっていた。それは神子でも八葉でもない、宙ぶらりんな立場の私に与えられた、唯一の存在意義。不安もまだあるけれど、今は目の前のことを一所懸命にやろうと思っている。 源氏と平家、九郎さんと鎌倉、弁慶さんと私――…現状は決して安定しているはいえない。それぞれ、思うことを心に抱えたまま迎えた、しばしの休息だった。 考えることも、やるべきことも尽きない。だけれども、それらに取り組むよりも先に…目の前で、今にも泣きそうに顔を歪める彼女をどうにかするべきだろう。寝起き頭を働かせ、私に縋るように抱きつき、震える望美ちゃんに微笑みかけた。 「望美ちゃん、一体どうしたの?」 すると望美ちゃんは、耐えきれなかったように、ぽろりと涙を落したのである。 140203 |