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望美があかりからそれを聞いたのは、速玉大社に着いたその夜のことである。


「本当に、ごめんなさい。全部弁慶さんに話しちゃったの」


申し訳なさそうにうなだれるあかりを前に、望美は納得していた。昼間、弁慶とあかりの姿が見えなかったのはそういうことだったのかと。
速玉大社に着いてからは各々自由に時間を過ごしていたけれど、所在が知れないのは弁慶とあかりだけだったのだ。もしかして何かあったのではと勘繰っていたのだが、予想は当たっていたらしい。


「仕方ないよ。それに、弁慶さんは協力してくれるんでしょう。私は思いつきもしなかったけど、心強いよ」


望美は責めることなく言った。しかしあかりの表情は晴れない。どこか思い詰めたようにさえ見えるあかりの顔いろに、望美は恐る恐る繰り返した。


「…弁慶さんは話を信じてくれて、協力してくれることになったんだよね?」

「あっうん、それは確かだから、大丈夫。ごめんね、ちょっと弁慶さんに言われたことが気になっちゃって」

「何を言われたの?」


あかりは一瞬、迷うように視線をさ迷わせた。それから、小さく呟く。


「”全部終わったら、責任を取ってもらいますから”…って」


責任とは、あかりが弁慶に望美の時空越えについて黙っていたことだろうか。弁慶を助けたい気持ちを、己の恋慕に重ねていた事だろうか。…それとも、あかりが弁慶を救うためにこの世界へやってきたそれ自体についてを言っているのか。
いずれにしても、それはあかりだけを責められることではない。望美が居たからこそ、起ったことである。


「あかり、私も一緒に責任取る。だってあかりは悪くないよ」

「ううん、いいの。私に責任取らせてほしい」


望美の申し出を、あかりはきっぱりと断った。あまりの歯切れの良さに、望美があかりを無言で見返す。あかりは、はっとして言い訳のように続けた。


「私が責任取るくらいで弁慶さんを救えるなら、安いくらいだよ。…それに、それで弁慶さんの気が晴れるのなら、進んで責任取りたい。嫌われてても、いいの。弁慶さんに関われることが、嬉しいから」


しかし、あかりは自信がないのか俯き気味に笑う。こんな執着して気持ち悪いよね、とかそんな風なことをもごもごと付け足した。だけど、望美はちっともそんな風には思えなかった。


「あかりは、すごいなぁ」


感嘆の声が、口から飛び出る。


「弁慶さんを心から、想っているんだね」


あかりがつらく当たられても弁慶の側に居たいと言うのは、今までも同じことだ。でも今、彼女は嫌われててもいいのだと言った。自分がどんな責めを負っても、彼が救われればそれでいいと。
自分と相手が結ばれるよりもまず、相手の幸せを願う。例え思っていても、簡単に口にできることではない。しかもこの状況下だ。あかりは戦場を知っているし、自分の命だって保証はされない。そんな中で、盲目的に、ひとりの幸せを願っている。

(やっぱりちょっと、普通ではないのかもしれない)

けれども、不思議と望美にはそれでいいのだと思えた。弁慶につり合うのは、こんな彼女だからだろうと。

(それに、責任って)

言い方は不穏だが、望美はあんまり心配していない。
何故か、それはあかりが思っているような悪い物ではないような、そんな気がした。






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