沈み込む気持ちを知ってか知らずか、弁慶さんは首を傾げた。そして、問う。


「あかりはどうして僕のことが好きなんですか」

「それは――」

「あかりは先程、自分が来た理由は僕にあると言いましたね。貴女が僕に恋をしているからだと。でも…君への僕の恋慕は、使命感に引き摺られてのことではないんですか」

「え…」


淡々とした弁慶さんの口調。しかし私は、彼の言わんとしていることを悟り、硬直した。


「君は、僕のためにこの世界へやってきた。真実はどうであれ、君自身はそうだと思っているのでしょう。でもその気持ちは、その始まりの記憶に引き摺られてのものではないのですか」


そんな風に、考えたことはなかった。私の恋慕とこの世界への召喚と…どちらが先かはもう分からないとは思ったけれど、この気持ちが何かに影響された結果のものだとは疑いもしなかった。

(ううん…疑う必要もないよ)

だって、私は始まりの記憶を忘れていたのだ。それでも、恋をした。記憶なんて関係なしに、私は彼に惹かれた。どうしようもないほど――私は、弁慶さんを想っている。


「違います!」


はっきりと、否定する。
弁慶さんを強く見つめ返す。この想いが余すところなく伝わればいいのにと、そんなことを考えながら。


「弁慶さんを救いたいとか…一緒に居たいとか。全部独りよがりの感情だってわかっています」


私にはあまりにも出来ることは少ない。でも出来ることなら、なんだってしたい。…これが好きという感情として正しいのかは、わからない。それでも、この気持ちはもう抑えようがないから。


「私は、弁慶さんが好き。惹かれている。何かに影響されてのことなんかじゃない。理由なんか、堪えられない。貴方が好き。それがこの世界での――私の唯一の真実なんです」


異なる世界。あやふやな立場。現実味のないここで、信じられるただひとつの気持ち。


「この気持ちだけは、否定しないでください。これだけは、弁慶さんに言われても取り消せません」

「………」

「…取り乱したりして、すいませんでした。でも、全部話したのは弁慶さんに、幸せになってほしいから」


弁慶さんは、答えない。
でも私は、引くつもりは一切なかった。


「信じられないかもしれない。今の話も、私のことも。でも、私に――私と望美ちゃんい、協力して下さい。貴方に生きて幸せになって欲しい。それが私の願いなんです」


気付いてしまったのだ。

彼と結ばれなくたっていい。彼のことは好きだけれど、無理やり嫌がる彼を振り向かせようとは思わない。

振り向いてくれるよりも。
私はただ、彼の幸せを望んでいるのだと。


140713



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