望美ちゃんに断りもなく全てを語ることを申し訳なく思ったものの、それでも躊躇ったのは最初だけだった。語り出したらするすると、言葉は止まることを知らなかった。


望美ちゃんが、時空を越えられること。
弁慶さんが源氏を裏切った時空のこと。
そこで私が弁慶さんと心中したこと。
私と弁慶さんが、いくつもの時空において死の運命から逃れられなかったということ。
望美ちゃんの持つ神子軍記が、これらの話を裏付けていたということ。

――そして、私の始まりの記憶。
私が望美ちゃんによってこの世界へ招かれ、弁慶さんを救うために呼ばれたのだということ。


弁慶さんは、じっと聞き入った。
口を挟むことなく、視線を逸らさず、向い合って座ったままただ私の言葉に耳を傾けていた。

話を聞き終えた弁慶さんは、ひとつ瞬いた。それから、ふっと肩の力を抜く。


「なるほど、突拍子もない話だ。でも、納得に思うこともあります」

「納得…ですか?」

「ええ。この頃の神子の態度には疑問を想うことが多々ありましたから。神子としての特別な力かと思いましたが…望美ちゃんは、大変な思いをしていたんですね」


優しく吐き出された息、憂い顔で伏せられた睫毛に、胸の奥がきゅっと痛んだ。弁慶さんのいう通りだ。望美ちゃんは大変な思いをした。彼女は私と弁慶さんのことばかりを心配していたけれど、一番辛かったのは間違いなく彼女だろう。何度も目の前で名前を失い、悲しい運命を目の当たりにしてきたのだから。

(わかっている、わかっているのに…)

私は望美ちゃんに、嫉妬している。望美ちゃんはどこまでも清らかで、美しい。惹かれない筈がない。
…不意に私は、春の京での出来事を思い出した。あの時も、胸がこんな風に苦しくなったのだ。だから口を突いて、余計なことを言った。それが弁慶さんの”恋人”としての役割を得たきっかけなのである。

私は、あの時から何も変わっていない。何も、変えられていない。
弁慶さんはきっと今も望美ちゃんを想っていて、決意だけは確かでも、私には弁慶さんを幸せにする自信はなかった。





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