彼の視線を、真っ直ぐに受け止める。逃がさないという、強い意志が宿る瞳。探るように細められたそれに、怯えるよりも納得した。

(私、疑われていたのか)

ややショックではあるが、思えば当然なことである。弁慶さんは私よりも、頭がいい。周りをよく見ている。私が、彼にこんな大事なことを隠し通せるわけがない。
でも何を隠しているのかまでは流石に、分からなかったのだろう。だからこうして物理的に追い詰めるような真似をしているのだ。確かにあと一刻、こんな直球に問いただされて私が白を切れるとは自分でも思えない。


「あかり、何か言ったらどうです?」


――だというのに、弁慶さんはじれたように急かす。黙ったままの私を気に食わないというように、眉を潜める。そして吐き捨てるように言った。


「貴女はいつも僕の、邪魔ばかりする」

「え……?」

「違うと、言い切れますか?…いや、貴女は気付いてはいないんだろうな。どれだけ、君が僕を苦しめているのか」


びっくりして目を見開く。からかわれているのかと思った。確かに私は出来の悪い部下だ。でも弁慶さんを苦しめているだなんて、あの弁慶さんに私が影響を与えてるだなんて、思いもしない。
だけれど、その声はあまりにも苦しげで。見上げた表情は苦痛に歪んでいて。もたらされた事実に、鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

――気付かなかった。知らなかった。これでは、こんなに嫌われていたのでは、彼を振り向かせるどころではない。救うだなんて…できやしないではないか。


「………ッ」


耐えきれず、唇を噛む。
思い知らされた。どこかで私は安心していたのだ。私と弁慶さんは結ばれる運命にあるのだと――心のどこかで、望美ちゃんの話を鵜呑みにしていた。

でも、それは私とは似て非なる私のことなのだ。何度もそれを自分に言い聞かせていたのに。何の努力もなしに上手くいくわけがない。…彼が、私を好きになる理由なんて、ひとつも思い至らないのだから。

(だったら、隠す必要なんて、あるの?)

思う。
望美ちゃんは言った。私が弁慶さんを振り向かせ、弁慶さんの裏切りを防ぎ、共に幸せになる道を探すのがベストだと。

(でも私と結ばれることなんて、彼は望んでいない)

それならば、私がどんなに努力をしても無駄ではないだろうか。それならば――全てを打ち明け、彼の知恵を借りるべきではないかと。


「あかり」


追い打ちをかけるように、弁慶さんは私の名を呼ぶ。見上げた瞳に、私が写り込む。

ああ、逃げられない。
腹を括るしか、ない。


「弁慶さんにとっては、気味の悪い話かもしれません」


ようやく絞り出した声は、情けなく震えていて。


「信じて、もらえないかもしれない。信じられないことだらけなんです。私だって、全てを信じたわけじゃないから。…自分のことながら、肯定も否定もできていないんです」


まるで、泣きそうな声だと自分でも思った。


「それは、聞いてから判断します」


促され、私は語りだす。
私と弁慶さんに纏わる、全ての物語を。


140712



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