「全く、回りくどいね。あんたは、あかりを誰よりも信じられないんだな」


表情から、余裕が消えた。その変化に、彼の図星を突いたことを悟る。
しかし弁慶は、簡単には折れない。


「回りくどいのは百も承知ですが、決して疎かにはできないことでしょう。二度までは偶然だが、三度目からは必然になる」

「何がいいたい?」

「出来過ぎだって、言っているんです。百歩譲って、三草山での彼女の働きはあかりの機転や努力が成した業だったとしましょう。でも、ヒノエの正体に感づいたこと、有川君への懸念は、そう簡単に思い至れるものではない」

「それは、あかりの才能と努力の結果だってさっき言ってたじゃん」

「努力にも才能にも、限界がある。僕は真実あかりの才能を信じているし、努力を続ければ必ずそこへ至るだろうことは予想できます。――が、短期間すぎる」


弁慶の心に引っかかるのは、その一点だった。それに、と続ける。


「偶然それに気付いたのだとしても、それを知りながら手の内に隠し持つなんて芸当、彼女にはできなかった筈だ。少なくとも、春の段階では」


だがヒノエの一件で彼女は、そうと勘付きながらも公言しようとはしなかった。それは弁慶の”好み”の対応ではあったが、以前のあかりらしくないといえば、らしくなかった。うっかり、「ああ、熊野別当なんですね」くらい口を滑らせてもおかしくはないのに。

変化らしい変化が、あったわけではない。だが、そう…熊野へ出発する少し前あたりから、彼女は鋭くなったようにも思う。些細な言動に、見破られているかのような錯覚を覚える。――この身の内に秘めた、策略を。


「僕の…考えていることをそのまま、彼女が口にすることがある。まるで、心内を読まれているみたいだ。流石に、何か絡繰りがあると疑って間違いではない」


はっきりと断言した弁慶の表情に、ヒノエは奥歯を噛みしめる。

弁慶は、予想以上にあかりに固執している。だが同時に、誰よりもあかりの存在に疑問を抱いているのだ。彼女の何が、彼にそこまでさせるのかはわからない。でも、愛を語るのと同じ口で彼はあかりを傷つけようとしている。

手放せばいいのに、それもできない。引き寄せて傷つけて、それを厭うくせに安心もしている。複雑怪奇な心境。


嫌な顔だ、と思った。
理解できるから、尚更腹立たしかった。






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