ヒノエは、弁慶に呼び出されてここへ来ている。人気のない、ちょっとした裏道だ。
今神子一行は、勝浦に宿を取っていた。久々の宿に、皆疲れを癒している。その合間の、呼び出しである。

新熊野権現で出会ってからヒノエは、ずっと共に行動していたわけではない。神出鬼没に度々姿を現していたのだ。でも彼が一行にずっと見張りを付け、自ら部下に指示をしながらも動向を窺っていたことに弁慶は気が付いていた。それが熊野のやり方であるし、ヒノエの性格であることを熟知していたのだ。自分の故郷、そして甥のことなので当然といえば当然だった。

また、それはヒノエの方も同様である。ヒノエは、熊野へ来てからの弁慶とあかりの微妙な関係を敏感に察していた。恋人を名乗りながらも妙な距離を保つ二人、あかりの弁慶への好意と、弁慶のあかりへ抱く歪な執着に。

望美や神子一行も興味深いが、常に冷静な叔父の動揺は、それもそれで面白い。呼び出しに素直に応じたのは、きっとその事に関する相談だと思ったからだ。
それは見事に当たっていたものの、ヒノエはすぐに後悔した。

弁慶のあかりに対する想いがあまりにも、面倒だったからである。


「あかりがお前に惚れこんでいることは、明確だろ。何が不安なんだよ。不安にさせているのは、あんただ。繋ぎとめておきたいのなら、もっと大切にしてあげればいい」

「そんな、単純な話ではありません」

「単純だろ。男と女なんて、抱き合えばそれでどうにでもなる」


強い口調で言い切ったヒノエに、弁慶は苦笑を浮かべた。


「ヒノエにそんなことを、言われるだなんてね」


茶化すような物言いに、ヒノエは舌打ちする。回りくどい弁慶の話に、少々飽きがきていた。

弁慶とヒノエは、異なるようでいて、その本質はよく似ている。それは女性に優しいだとか、表面上のことではない。血筋だろうか、価値観や考え方が決して一致はしていなくとも、互いに互いを理解しあえる。それを、自らも自覚している。

だからヒノエは、弁慶の気持ちを敏感に察することができた。彼は、疑り深い。慎重で、感情だけで動くようなやり方はしない。だから――疑う。恐らく、恋愛という一時の感情で動くあかりが理解できないのだ。それだけで、何もかもを委ねようとするあかりに、本当に裏がないのか不安なのだ。

しかしそれは、彼女を信じたい、その強い気持ちの裏返しでもある。だからこそ疑って、疑うことでその必要がないことを確認したいのだ。






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