つまり弁慶があかりに振りまわされているのは、今に始まったことではない。それを弁慶や、あかりが自覚していたかどうかは、兎も角。

だが弁慶は最早、それを認めざるを得なかった。自分がいかに彼女に心乱され、影響されているのかを。

(なぜだ…?)

恋人関係を持ちかけてから、あかりは日々弁慶の予想を上回っていくのだ。
すぐに吐くと思った弱音も、遂に聞いたことがない。弁慶の態度にめげず、雑用も文句ひとつなくこなす。あの三草山でもそうである。弁慶の冷酷ともいえる判断を、彼女も理解し冷静に同意した。また彼女自身、知識を生かそうと日々必死になっていた。事実彼女の知識は、それなりに作戦の補強材料として利用できた。

熊野へ来てからは、特にそれが顕著だ。
熊野入りしヒノエの正体を見事看破してみせ、有川将臣への弁慶の懸念をも感じ取り、穏やかな熊野における緊迫した情勢を把握しつつあるようだった。
――その彼女の思考は、完璧だった。彼女の考えは、まさに弁慶のそれと一致している。

最初はまるで期待なんてしていなかった、軍師補佐という名ばかりの立場。それは、異世界から来たばかりで軍へ入りたいと申し出た彼女に与えた、とりあえずの立ち位置でしかない。彼女が面白そうだから手元に置いていた、それだけにすぎなかった。

だが今や、立派にあかりは弁慶の補佐をしている。ずっと昔からそうであったかと思う程に、彼女はすっかり弁慶の部下として馴染んでいる。それは彼女の努力の結果だ。苛酷な中、どうしてそれ程までに彼女が頑張れるのか、その原動力がどこにあるのかは理解できないけれど。


ただひとつ言えることは、そう。
何の特徴もなく普通であった筈のあかりは、この世界で、源氏軍で働く今となっては最早"普通の女の子"の枠から外れているのだ。



「で、なんだよ。結局あんたは、自分の可愛い恋人を惚気たいわけ?」

「違います。話は最後まで聞きなさい」


心底うんざりといった顔をした甥に、弁慶は溜め息を吐く。本題は、ここからだった。



140621



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