6 「籠もよ、み籠持ち…この丘に菜摘ます児家聞かな、告らさね…我にこそは告らめ家をも名をも」 雄略天皇の長歌だ。それは、支配者の歌だった。 彼の姿を見るのは、初めてである。でもすぐピンときた。彼は八葉であると共に、また彼も九郎さんや有川と同じ、役目を背負う人であると。 「弁慶さん、今の熊野別当は曲者だと言っていましたよね」 彼――ヒノエと名乗った少年は、望美ちゃんを口説きにかかっていた。でも望美ちゃんはそれを軽くかわす。 ヒノエくんの軟派な態度。でもその裏に、鋭い洞察力を感じた。もしかして、と彼の正体を察した私は言外にそれを匂わせ、問う。弁慶さんは少し目を見開いた。 「あかりは、なかなかどうして鋭いですね」 その反応に、私の推測が当たっていることを知る。そのやり取りを耳にして、話題の少年が私に興味を示した。 「へぇ、そこにも隠れて姫君がいたのか。だけど残念、あんたのお手付きとはね」 「あかりに失礼ですよ、ヒノエ。望美さんに見劣りすることを、僕にかこつけて誤魔化すなんて」 ヒノエくんは、弁慶さんに向って嫌な顔をする。 「失礼なのは、あんただろう。この子に何か恨みでもあるのかい?」 「あの…慣れているので気にしないで下さい」 食ってかかりそうなヒノエくんを、慌てて止める。彼と弁慶さんがどんな関係だとしても、弁慶さんが言い争いで負けるとは思えない。それに後から私が争いの原因だとか弁慶さんにねちねち言われても、困る。 ヒノエくんは私の制止に、目を丸くした。私はこの場を取り成すように頭を下げた。 「はじめまして、あかりです」 |