有川がこの世界に来てから、もう三年半になるのだという。平家にとっては、栄華からの転落というとても苦しい三年半だっただろう。それこそ、怨霊や呪詛に手を出す程に。

(望美ちゃんがなんとかする、とは言っていたけど…)

有川がこの熊野に居たこと。目的はきっと私たちと同じ、熊野水軍への介入。源氏にも平家にも、なかなか厳しい局面だ。
でも望美ちゃんにとっては”何度目か”の熊野である。気にはなるが、私が変に気を揉むよりも、彼女に任せるのが一番だという気がした。適材適所というやつだ。ならば私は、私にしかできないことをするしかない。

(弁慶さんの裏切りの算段、か…)

源平入り乱れる現在の状況で、弁慶さんの目的はただひとつ、乱世を終わらせること。そのためならば、源氏の裏切りも視野に入れているらしい。
この熊野は、きっと弁慶さんの方向性を決定付ける重要な地になる。私は、どうしてもこの熊野で彼に近づきたい――近づかなければならない。


「ふふ、浮気ですか?そんなに真剣な顔をして」


突然、肩に手が置かれる。突然背後からの強襲にびくりと身体が震えた私を、弁慶さんは嘲笑うように口元を歪めた。


「え!?そんなわけないですよ!」

「そうでしょうか。そんな熱い視線を将臣くんに向けて…少々妬けてしまいます」


すっと目を細めた彼は、私の動揺を面白がるような表情を浮かべる。

――嘘つきだ。弁慶さんは、言葉程私に執心はしていない。有川のことを警戒しているのは、彼も有川を平家側だと疑っているからだ。弁慶さんは、そう簡単に落ちてはくれない。

でも、私は現金なもので。綺麗な彼の顔が至近距離に寄せられて、鼓動が高鳴った。


「そ、それは私の台詞です。弁慶さんはいつも――…」


狼狽えて声をあげたその時、一行の前方が騒がしくなった。最後の八葉――熊野別当が現われたのだ。





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