「いつから、それを思っていました?」

「…割と、初めの方から。九郎さんと頼朝殿の関係は、あまりに危うく感じます」

「ええ…僕も同じです。貴女がそういうのであれば、僕の杞憂ではなかったようですね」


悩ましげに頷く弁慶さんの態度に、ほっとする。私の答えは、間違っていなかったようだ。それから、弁慶さんは言い含めるように私を見つめた。


「今回の熊野行きは、貴女も気を抜かないように」





弁慶さんは、考え事をあまり人には明かさない人だ。このように意見を尋ねられ注意を促されるということは、多少なりとも信頼されている証拠といっていいのではないか。――部下としては。


私は宇治川、三草山と合戦を経験し、京では弁慶さんの手足となって働いた。その過程で、私の使いどころを見極めて自身の腹心として扱ってくれるまでになったのだ。それは嬉しい。嬉しい…けれども。

(本当に私、弁慶さんと両想いになれるのかな…)

明らかに、今は部下扱いしかされていない。一応名目上は恋人なので、それらしい発言をされることもある。皆の前で、わざとらしく、だが。

(望美ちゃんは、私と弁慶さんが結ばれるって信じているけど)

あの弁慶さんが、私を好きになる。それこそ、心中相手に選ぶ程に。そんなことが本当に、あり得るのだろうか。

望美ちゃんの話を疑ってはいないし、あの神子軍記の記述からして事実だったのだろう。だけれど私にはどうしても、今私の隣に居る弁慶さんがそうなるとは思えないのだ。少なくとも、彼は今の時点では私に特別な想いなんて持っていないと想う。

(望美ちゃんが見てきた"私"は、魔法でも使えたんじゃ…)

今の私にはそうとしか思えなくて、一人頭を抱えた。



140505



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