「さて、これは望美ちゃんに返すね」


証明が済んだところで、開いた神子軍記を元の形に戻す。新しく紐を綴じたそれを、望美ちゃんに差し出した。


「え…でも、元々はあかりから預かったものだから私のものじゃ、」

「ううん。これは、望美ちゃんが持っていた方がいい。望美ちゃんさえ良かったら、の話だけど」


ざっとしか読んでいない。けれどこれは、ある一人の視点から見た一方的な記録でしかない。それを鵜呑みにする危険を回避する為にも、私はあまりこれを読んではいけないと思う。
自分のこととはいえ、これを書いた私と今の私は、同一とはいえないのだ。それに別時空の私と弁慶さんの恋話など、読むに堪えない。それは、私であって私でない女の恋物語である。


「私には、私の運命があるから」


取りだしたのは、私の神子軍記だった。望美ちゃんの持つ、古ぼけたそれと瓜二つ。ただ、私のものはまだ新品で記述も少ない。


「弁慶さんに、軍記を書きたいからって紙を貰ったのはついこの前のことなの。まだ数ページしか書いていないけど…きっと、それとは違う内容になる」


それは確信めいた推測だった。
望美ちゃんは、この先の私の結末を許せなくて何度も時空を巡った。つまり――失敗だったのだ。いくら私や弁慶さんが満足していても、その結果では駄目だった。それでは、望美ちゃんが幸せになれないのだから。

そして、今こうして望美ちゃんは私に辿りついた。望美ちゃんの冊子にある記述は、間違った私。だからその内容は正されるだろう。

(次こそは、きっと間違えないから)

望美ちゃんは、古ぼけた神子軍記を胸に抱く。大切そうに扱われていたその様子に、それを書いた私は十分報われただろうと思う。
何を思って死んでいったのか、私にはわからない。でもきっと、私は望美ちゃんを傷つけたくはなかった。だから彼女の支えになれているのなら、嬉しいだろう。





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