同じ世界から来たのに、あかりは望美や譲、将臣とは違い何の役割も負っていない。だからだろうか、望美はあかりを見る度に、帰らなければならない世界のことを思い出す。
自分だけでなく、譲や将臣、あかりを無事連れ帰らなければと思う。

当のあかりは、誰よりもこの世界に順応しようと必死だったのかもしれない。神子でも八葉でもなく、この世界においては所謂招かれざる客であるというのに、進んで弁慶の仕事に携わりたがった。

あかりは歴史に詳しかった。それを生かして弁慶に認めてもらったようだ。上手くやったものだ、と誰かが呟いていた。
でも、実際はそんな簡単な話ではない。学校の授業ではないのだ。答え合わせもできない。ただ自分の中にあるものを、形にする。それがいかに難しいか、同じ立場にならないと真に理解はできやしない。

ただ、彼女の頑張りを弁慶はよく理解しているようだった。弁慶は、仕事においてかなり厳しい上司だった。女性に優しい彼だが、あかりに対しては部下への対応そのものだった。
特に、彼女に対してはよりキツく当たっていることを八葉は知っていた。それとなく九郎が咎めても素知らぬ顔で、あかり自身文句も弱音も一切言わないので、皆ただ見守るしかなかった。

今から思えば、それは愛情の裏返しだったのだろう。

弁慶が、彼女を見初めたのも当然のような気がする。最初こそ、弁慶はあかりを信用しなかったのかもしれないが、あんなに頑張る姿を見せつけられれば心も動く。

望美は、二人をお似合いだと思った。大人しく見えるけれど勤勉で聡明な彼女だから、弁慶と共に歩けるのである。
熊野で心を通わせた二人に、いっそうその思いは強まった。


しかし、後に思えばこの時の熊野で二人の運命の歯車は、間違った方向に狂いだしたのかもしれない。





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