彼女は、振り返る。


鈴の音に呼ばれ、やってきた宇治川の戦場。そのまま源氏軍に参加し、春の京で過ごした。望美はそこで剣の師、リズヴァーンと出会い剣術を身につけた。
他にも、多くの出会いがあった。八葉との出会い。時空の渦で別れた将臣との再会、そして望美たちより先に源氏軍へ居た少女、あかりとの合流。

あかりの存在は、望美にとって大きな刺激となった。
あかりは持ち前の知識と発想を駆使し、弁慶の軍師補佐として働いていた。八葉でも神子でもない、理由なくこの世界に迷い込んだ彼女は、しかし冷静に事態を受け入れているように望美からは見えた。
驚いたのは、三草山での夜襲のこと。平家の罠にはめられ火を放たれた際も、狼狽える望美と対照的に彼女は冷静に弁慶の指示を受け入れていた。彼女の強さに、衝撃を受けた。

季節が巡ると、望美たちは熊野へと向かった。
望美はこの頃、あかりのことを一番に気に掛けていた。あかりは弁慶に対して恋慕を抱いていた。誰の目から見ても明らかだった。とはいえ、弁慶と彼女は既に恋仲ではあった。弁慶自身がそれを皆に公言したのだ。けれども、どこかぎこちない二人は、つかず離れずの関係を保ったままだったのである。

しかし、二人のことはすぐに頭から消えた。
情勢が急転したのだ。和議と偽った源氏の奇襲は失敗、その最中にリズヴァーンがはぐれた。熊野で水軍を味方につけられなかったのも痛手だった。


鎌倉へ向かうも追い返され。京で戦が始まったことを知り駆けつけたその矢先。炎に包まれる京。屋敷に火を放たれ絶体絶命に陥る。八葉たちはなんとか望美だけでも守ろうと、身体を張って散っていった。


そして最後に、白龍は望美にあるものを託した。望美は、強制的に帰還させられた。


望美は、戻ってきた。戻ってきてしまった。
はじまりの雨の日の学校へ。行きとは異なり、ひとりきりで。いくら待てども鈴の音は聞こえず、将臣も譲もあかりもいない。ただ無力感に苛まれた。


彼女に希望を与えたのは、手に握ったそれだけだった。
白龍の逆鱗。時空を越える力を持つ鱗。白龍が、自分の命と引き換えに望美に残してくれたもの。




「私は、皆を救いたい――!」




そうして、望美は開始したのだ。
時空跳躍による、運命の上書きを。



131025



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