3 もう、わけがわからなくなりそうだ。ぎゅっと、冊子を胸に強く抱く。このまま、自分までもがあかりのことを忘れてしまいそう。それがひたすらに、怖い。 その時、ふと望美の視界が翳る。 「神子、どうした」 「リズ先生…」 人目につかない場所へ来たつもりだったのだが、お見通しだったらしい。掛けられた声に振り向くと、リズヴァーンが優しい目で見下ろしている。 不思議だ。何ひとつ話してはいないのに、彼には全てを見透かされているように感じた。あるいは、彼ならもしかしてあかりを覚えているのかもしれないと、望美は無意識に思っているのかもしれなかった。 「先生…あかりはどうして居なくなっちゃったんだろう…どうして上手くいかないの…?」 言葉は、言葉にならない。ただ浮かぶままに感情を晒す。リズヴァーンはそれすら見通していたかのように、僅かに頷き、助言をくれた。 「神子。一番最初に戻りなさい」 「最初……?」 「そうだ。良く考えなさい。何事にも起点は、ある」 最初。 宇治川合戦、旅の始まり。 春の京、あかりとの出会い。 …違う。 厳島、あかりと弁慶の最期。 望美のループの始まり。 夏の熊野、二人の関係の始まり。 その、前。 ずっと前。 望美のはじまり。 一番、最初へ。 浮かんだその場所は、何もかもの始まりの場所で。そこへ帰ったところで、どうにかなるとは思えない。でも、他に手はない。そこ以上の「始まり」は無いと思った。 意識を手繰る。 龍神の力を借りる。 今度こそ、上手くいくように願う。 「お願い。私を、あの場所へ―――!」 140118 |