もう、わけがわからなくなりそうだ。ぎゅっと、冊子を胸に強く抱く。このまま、自分までもがあかりのことを忘れてしまいそう。それがひたすらに、怖い。
その時、ふと望美の視界が翳る。


「神子、どうした」

「リズ先生…」


人目につかない場所へ来たつもりだったのだが、お見通しだったらしい。掛けられた声に振り向くと、リズヴァーンが優しい目で見下ろしている。
不思議だ。何ひとつ話してはいないのに、彼には全てを見透かされているように感じた。あるいは、彼ならもしかしてあかりを覚えているのかもしれないと、望美は無意識に思っているのかもしれなかった。


「先生…あかりはどうして居なくなっちゃったんだろう…どうして上手くいかないの…?」


言葉は、言葉にならない。ただ浮かぶままに感情を晒す。リズヴァーンはそれすら見通していたかのように、僅かに頷き、助言をくれた。


「神子。一番最初に戻りなさい」

「最初……?」

「そうだ。良く考えなさい。何事にも起点は、ある」



最初。
宇治川合戦、旅の始まり。
春の京、あかりとの出会い。

…違う。

厳島、あかりと弁慶の最期。
望美のループの始まり。
夏の熊野、二人の関係の始まり。

その、前。
ずっと前。

望美のはじまり。
一番、最初へ。



浮かんだその場所は、何もかもの始まりの場所で。そこへ帰ったところで、どうにかなるとは思えない。でも、他に手はない。そこ以上の「始まり」は無いと思った。

意識を手繰る。
龍神の力を借りる。
今度こそ、上手くいくように願う。



「お願い。私を、あの場所へ―――!」



140118



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