時空を越えた先は確かに、あの時の熊野である。勝浦の宿。細々とした状況も、全てがあの時のままだと確認した。

――ぽかりと、あかりが居た筈の場所だけ穴が空いたように無くなっていた以外は。

時空跳躍に成功したと確信し、すぐ望美はあかりを探した。あかりと弁慶の仲が縮まるのは、この勝浦を出た後だ。それまでに手を打ちたいと判断したのだ。
しかし、肝心のあかりが見つからない。散々探し回り、遂に弁慶へ尋ね、返ってきたのがあの言葉だった。


「な、何言ってるんですか。あかりですよ?!私たちと同じところから来て、弁慶さんの補佐として働いていて…」


弁慶の新しい、あかりへの嫌がらせかと思った。でも、弁慶だけはなかった。誰に聞いても返ってくるのは同じ言葉。あかりの存在しない熊野は、何の不都合もなく成り立っていた。まるで最初から、彼女などいなかったというように。




前に白龍に聞いたことがある。あかりの在り方について。
それはまだ、彼女と出会ったばかりの頃だ。


「神子、私もあかり、よく分からない。でも理由なく時空、越えられないよ」


たどたどしく述べた白龍だが、要するに自然発生的に時空跳躍することは、できないというのだ。つまり、何らかの理由はある筈だと。でもそれが何なのか、皆目見当がつかなかった。

彼女は神子に、望美に巻き込まれたわけではない。単独、あかりは宇治川合戦に現われた。隠された役割が何かあるのではと考えたこともあった。

(でもそれは、白龍に否定された…)

少なくとも、八葉や神子が関与することではないのだ。
ある筈のないイレギュラーな存在。あまりにもそれは不安定。そして今、あかりが居ない状況になって、その存在自体が危ぶまれている。

本当に彼女は、ここに居たのか?
全て望美の思い込みだったのではないのか?
消えたというのは、必要のない存在故ではないのか?

(…いないわけがない、だってこれが、あるもの)

根拠はただひとつ。神子軍記だ。あかりがこの世界で過ごした軌跡は、ここにはしっかりと綴られている。あかりは確実に居たし、その足跡も残しているのだ。





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