厳島弥山、山頂。
立ち尽くす望美には、もう何も残されていない。

厳島に着いてすぐ、望美は山の牢に入れられた。あかり、弁慶とは船上で話したきり視線すら合わせられなかった。船での会話では結局二人の心中を知ることはできず、出来ることはひたすら二人を信じることだった。

しかし、幽閉されて一日。見張りが居るのは感じたものの、誰も訪ねてはこない。痺れを切らした望美は牢を破り、導かれるように弥山を登った。

そして唐突に、エンディングは訪れたのだ。



望美は暗い瞳で、目の前の現実をぼんやりと眺めている。
認めなくない結果、しかしこれは事実なのだと、思い知らせるかのように赤い液体が望美の足元を汚す。

消えた弁慶、絶命したあかり。あかりの亡骸を、見下ろしていた。先程までそれに、追いすがるようにして望美は泣いた。冷たくなる彼女の体温に、絶望した。


――やはり、望美の考えは間違ってはいなかった。二人は源氏を裏切ったのではない。たった二人で、戦いを終える為に彼らと道を違えたのであった。


あかりから託された冊子には、これまでの望美たちの行動がこと細かに書き留められていた。始めの方は筆に慣れない様子で、しかし次第にどんなことも逃しまいと熱心に。弁慶との裏切りの件は、情報漏洩を防ぐ為か、平家に寝返ってから追記されたらしい。いつからの計画か、平家への連絡手段はどうしていたかなど、全て明らかになっていた。
望美は、二人の計画の綿密さに唇を噛み締める。こんなの、防ぎようがない。

だが最後に近づくにつれて、内容は少しずつ変わっていった。そして、最後。その全てが望美に宛てられた釈明文となっていたことに気づき、息を呑む。

望美は、先程の出来事を思い返す。
あかりも弁慶も、最期はどこか満足げだった。それは弁慶が果たしたかった罪を償えたからで、また彼と道を同じくしたあかりの覚悟故であると綴られている。
実際、そのようなことを言っていたし、本人たちもそう思い込んでいたのだろう。

(でも、これでは意味がない)

後悔がないなんて、嘘。
死が喜ばしいことだなんて、有り得ない。手紙の最後の方の筆跡は震えている。弁慶のあかりを見る瞳には、痛ましい色が浮かんでいた。

本当は、生きて幸せになりたかった筈。
ただ平和に、二人で幸せになれた筈。
…なのに彼らは、それを出来ないと切り捨て諦めたのだ。

確かに二人の犠牲で世界の平穏は保たれた。戦は収まり、平穏な世になるのかもしれない。それは事実。だけれど。




「私は絶対に、諦めないから」




深呼吸、ひとつ。
望美は手を握り締め、顔を上げる。前を見据えるその瞳は先程とは違い、力強い光に満ちている。

望美は、こんな結末を受け入れたくはなかった。大切な仲間を失い、その死の上に成り立った幸せなんて、認めたくはなかった。


(だから、私は戦う)


皆が、幸せになれるエンディングを目指して。



望美はまた、時空を越えた。



131204



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