臆するな、前へ




マフィアっていったら、黒いスーツに危ない薬やら裏金の入っているスーツケースを持った人達のことだろうか。ヤクザのことは英語でジャパニーズマフィアというから、やはりイタリアンマフィアもその類の組織なのだろう。
そもそもイタリアといえば、ピザにパスタにルネサンス、そしてマフィアが有名。前、弟にちらりと聞いた覚えがある。イタリアを裏で取り仕切っているのはマフィアだと。


「ミルフィオーレ、ファミリー…?」

「そう。一年前位にできたまだ新しいファミリーだ。白蘭はここのボス」

「スパナさんも…?」

「うん」


あまりに急激な話の展開に、くらくらしてきた。つまりはそういうこと。わたしはマフィアのボスに、マフィアに入らないかと勧誘された、と。
でもそれならば説明がつく。白蘭さんがわたしに会社を辞めさせたり、気絶させて連れてきたりしたことの。


「…ウチは、少しあんたと話したかっただけ。助手にしようとかは考えてなかった」


スパナさんは、複雑な顔をしていた。


「ウチが直接会いに行く予定だったんだ。連れてくるのも、白蘭に会わせるのも、予定外」

「……じゃあなんで、白蘭さんは来たんですか?」

「たぶん…あんたが逃げられないようにする為。仕事を辞めさせて、アジトに連れてきてしまえば、もう戻れないから」

「も、戻れないって…!?」

「場所を知らないといっても、あんたは知りすぎた。白蘭がそれを見逃すわけないよ」


思ったよりも事態は深刻なようだ。
あれ?もしかして、このままいくと私、殺される…?


「や、やだまだ死にたくない!」

「…だから謝った」

「謝ったって、そんな無責任!知らなかったよ、そんな、私…死ぬの?」


どうしよう、どうしようどうしよう!
死ぬだなんて考えもしなかったし、自分の最期が殺されて終わるなんて最悪だ。
考えているうちに、なんだかとても悲しくなってきた。目からぼたぼたと涙が溢れる。


「…!(な、泣いてる)」


スパナさんは驚いたように私を見たけれど、それでも私の涙は止まらない。むしろ一層酷くなり、スパナさんはおろおろしだす。


「な、泣くな」


私の低い視線に合わせるように屈んだスパナさんは、落ち着きなくポケットを探る。


「飴やるからな、」


無理やり渡されたのは、さっきもらったものと同じ、棒つきキャンディー。二個も、三個も四個も、色とりどりのキャンディーだった。
私、スパナさんに凄く迷惑をかけている。だめだ、泣き止まなくちゃと思っているのに、それでも涙は尽きない。


「ご、ごめ、んなさっ…」

「無理に、喋んなくていい」


自分もどこか泣きそうな顔をしたスパナさんは、手袋を外して私の涙を指で拭う。それから、私を落ち着かせるように背中をさすり始めた。
不器用に、恐る恐る、それでも優しいその手に少し安心してしまい、また涙腺が緩んだ。


「今は、泣いとけ」


呟いたスパナさんの言葉はがとても暖かかくて、私は小さく頷いた。



081109



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