くたばれ日常




くるんと巻いた金髪に、色素の薄い眠たげな瞳。腕を捲った作業服姿のその青年。


「あのときの…!」


私が驚いて呟いたら、白蘭さんは悪戯っぽく笑う。それを見て、青年…スパナさんは眉をひそめた。が、白蘭さんは気にすることなく話を進める。


「もうわかったと思うけど、助手子チャンにはスパナ君の助手をやってもらおうと思って。スパナ君は我が社の開発の一任者だからね」

「私、技術系は…」

「大丈夫。スパナ君が見込んだんだから素質はあるよ。あとは1から覚えればいいし」

「で、でも」

「割と収入もいいよ?」


躊躇う私に、白蘭さんは「お茶を淹れてくるから」と部屋を出ていった。
スパナさんと二人でのこされて、微妙な沈黙が訪れる。…あ、この沈黙きつい。

その時、黙っていたスパナさんが急に私を見て、視線を伏せると呟いた。


「……ごめん」

「…え?」

「こんなつもりじゃなかったのに…ウチが声かけたから、」


しょんぼり、と効果音がつきそうな表情。
どうやらスパナさんは、私がここに連れてこられたのは自分のせいだと思っていて、凄い負い目を感じてる…?
確かにここに連れてこられたのにはびっくりした。でも一種の社会見学だと思えばなんでもなく、謝られるようなことではない。


「私、色々びっくりはしているけどあなたのせいじゃないです」

「…ウチの好奇心のせいで、あんたの人生が狂った」

「ほ、ほら、人生って波瀾万丈の方が楽しいし!私、大丈夫ですよ!?」


人生が狂った、なんて大げさな。肩を落としたスパナさんに、私は大丈夫だとアピールした。すると、視線を少しだけあげた彼は、上目使いで首を傾げる。


「許して、くれるの?」


な、なんか可愛いぞスパナさん。彼を安心させるように元気良く頷いたら、スパナさんは、目を丸くする。それから、ポケットからなにやら取り出した。


「…飴、あげる。お詫び」


か、可愛い…!!お詫びに飴だなんて…!
確かに第一印象は微妙だったけど、凄く良い人みたいだ。この人の下で働くのもいいかもしれない。仕事さえ、こなせるのなら。


「あの、仕事ってどんなことするんですか…?」


思い切ってそう聞いてみた。スパナさんは、え、と口をぽかんと開ける。


「まさか、助手やる気?」

「いや、まぁどうしようかな…と」

「…あんた、ここがどういうところだか知ってるの?」

「どういう…って?」


その問いかけが引っかかった。
ここがどんな組織なのか、白蘭さんは教えてくれなかったが、スパナさんは教えてくれるかもしれない。
私はありったけの勇気を振り絞って、質問した。


「ミルフィオーレって、一体何なんですか?」


スパナさんは、一瞬迷ううように視線をさまよわせた。が、しばらくして口を開いた。
そしてその答えは、私の予想を遥かに超えたものであった。



「ミルフィオーレファミリーは、イタリアンマフィアだ」



081108



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