どなたでしょう?




「助手子チャン、着いたよ」



軽い目眩がして、目を開けた先には胡散臭い笑顔。白蘭さんがいた。


「ごめんね、所在地を教えるわけにはいかなくて」

「だからといっていきなり人を失神させる人がどこにいますか」

「ここに」


最早ため息しか出ない。
白蘭さんの誘いを受けると同時に意識を失った。突然すぎる。首筋に残る痛みから、そこを思い切り叩かれたのだろうと辛うじてわかった。
それにしても――。
改めて見回したそこは、かなり殺風景な部屋。一言でいうなら――白い箱?


「ここが…白蘭さんのミルフィーユとかいう会社ですか?」

「ミルフィオーレね」


白蘭さんがやんわりと否定すると同時に、部屋の壁に掛かったモニターのようなものからピー、ピーという音が鳴る。一種の警報に似たそれに飛び上がる私を尻目に、白蘭さんは顔色一つ代えずにそれを切ってしまった。


「ごめんね正チャン。でも内緒だから」


呟きながら、ちらりとこちらを見る。私、何かしたかな。


「助手子ちゃん、マシマロ食べる?」

「は?マ、マシマロ?」

「そう。美味しいよー」


白蘭さんは、白いふわふわした物体を摘み、こちらにむけた。な、なんだマシュマロか。
手渡された白い固形物を仕方なく口に含むとひどく甘ったるい味が口の中に広がる。


「ねぇ白蘭さん、ミルフィーユは何をしている会社なんですか?」

「ミルフィオーレだよ助手子チャン」

「…何の会社なんですか?」

「秘密」


…はい?
白蘭さんはそれとなく視線をそらせて、摘んだマシュマロを口に含んだ。
完璧に話をそらされた。確実に、怪しい。そもそも、ミルフィオーレという会社は存在するのだろうか。聞いたことがないし、もしかして全て嘘?


「もしかして私、騙さ「約束がちがう!!」


突然、勢いよく扉が開いたかと思ったら、誰かが凄い剣幕で入ってきた。
その人は白蘭さんに近づくと、顔を歪めて詰め寄る。


「ウチに任せるって言った」

「大丈夫だよ、まだなんも話してないから」

「約束」

「正チャンには言ってないよ」


白蘭さんはあはは、と笑いながらそれをかわすと、じろりと私を見る。細められた目が私を捉えた。
…何でしょうか。


「助手子チャン、紹介するよ。スパナ君だ」


スパナ君、と呼ばれてため息をついて振り向いたのは、金髪の、作業服姿の青年。


「あ」


一目でわかった。それは紛れもなく、あの日の外国人だった。






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