例えば、



気が付くと、とっくに食事の時間は過ぎていた。仕事に没頭するあまり時間を忘れてしまうのはいつもの事だったので差して気にも止めなかったが、この時間には部屋にいる筈の助手子の姿が見えない。

(…どうかしたのか)

小さな不安が脳裏を過ぎる。基地内にはいるだろうが、ここが危険地帯であることに違いはない。腰を浮かしかけてウチは我に返り、自嘲気味に笑った。

(ウチ、心配しすぎだ)

いくら助手子に防衛能力が足りないといっても、彼女は立派な大人。小さな子を相手にするのではないのだから、あまり心配しすぎるのも良くないと心得ている。
それに――連絡用だと言って助手子に渡している小型モニター。彼女には黙っているが、あれにはもしもの時は身を守れるような仕掛けや、GPS端末がついていた。
そこまで万全な用意をしているのに、何を心配する必要があるというのだろう。

(助手子が自分の保護下にあるからだろうか。守る責任があるから?)

いまいち、釈然としない。例え助手子が自分の助手でなくても彼女の身を案じるだろうし、また助手が彼女以外の誰かだったらここまで気にかけないだろうと思う。

そんなことばかりを考えてしまい、近頃はいまいち仕事に集中できなかった。頭の片隅に常に助手子の存在を感じていて、でも決して不快ではない。でも、その不可解な己を探ろうとする程、妙に助手子を意識してしまって困るのだが。


「…ウチらしくない」


すっきりしない頭で、また助手子の姿を想う。



*



助手子が帰ってきたのは、いつもよりも1時間ばかり遅くなってからだった。


「ごめんね、お腹空いたでしょう」


一段落ついた仕事を放り投げぼんやりとしていたウチに、助手子は慌てて食事の支度をする。


「…?」


違和感。いつもより帰りが遅かったのもそうだが、今日の助手子はどこか落ち着きがない。そわそわした様子で時折、こちらに視線を送っている。それ自体は嫌ではないが…気になることは、気になる。


「あ…あのさ、スパナ。何か足りないものとか…ない?」


助手子がかしこまった口調で言い出したのは、ほかほかと湯気を立てる茶碗を受け取った時だった。あまりに唐突な問いだった為、すぐには答えられず首を傾げる。


「いや。今日も十分、豪華な食卓だと思う」

「あっご飯じゃなくて、ほら。近頃物足りないなぁ…とか、精神的に?」


食事のことではないらしい。仕事道具の話でも無さそうだ。精神的に、というのが良くわからない。ウチがつい口を噤むと、助手子はなんだか神妙な顔で続けた。


「私にできることなら、するよ。私に合わせて無理したりしなくていいからね?」

「何の話だ?ウチは別に何も不自由していないが」

「…でもさ、やっぱり生活習慣とかあるんじゃないかな。やっぱり共同生活だし」

「助手子はウチに不満があるのか?」

「そうじゃ、なくて」


助手子は困った顔で首を横に振ると、痺れを切らしたように膝立ちになる。じっとウチを見つめる表情は真剣だ。


「…スパナ」


静かに名前を呼んだ彼女は、ゆっくりとウチに近づく。ぐ、と近くにやってきた助手子は手を伸ばし、その指先がウチの頬に触れそうになった、瞬間。
…突然。顔を覆って叫んだ。


「ああもうっやっぱり私には無理ッ!」

「助手子、一体どうしたんだ!?」


びっくりして聞き返すと、助手子は真っ赤な顔を隠すように俯きながら呟く。


「スパナが、スキンシップに飢えていると聞いて…!ハグでもすればいいのかと!」

「…は?」


思わず、間抜けな声が出た。一体どこからその発想が出てくるというのか。


「最近、なんか悩んでるみたいで…もっと密接にスキンシップを取れば解決するって教えてもらったから………γさんに」

「(あいつか…!)」


全く、でたらめな事を助手子に吹き込まないで欲しい。しかし、助手子がウチのことをそこまで心配してくれていたとは。


「も、もう忘れて!じゃあお休み!」


助手子は、羞恥に耐えられなくなったのか一目散に逃げ出した。ウチがスキンシップに飢えているなんてことは全然ないのが…

(ハグ、ちょっとして欲しかったな)

少しそう思ってしまった自分に、首を傾げた。


101103




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -