幕間




白蘭さんが無茶なことを言い出すのは、いつものことなので、実際そんなに気にしてはいなかった。それに先日、メローネ基地を完成させたばかりだ。報告もしなければならないので、突然イタリアへ来るように言い渡されてもおかしくはない。
しかし、到着したばかりのイタリア本部で退屈そうに欠伸をする上司に、僕は思わず眉を寄せた。


「…白蘭さん、随分と暇そうですね」

「ふぁぁ、わざわざジャッポーネからご苦労様」

「メローネ基地の報告なんですけど、」

「あー、それは後ででいいや。資料だけ提出しといて」


白蘭さんは、完全にやる気がないようだ。非常に詰まらない、といった様子で机に突っ伏す。気紛れで、気分屋で、厄介な上司には変わらないのだが、この様子はどうしたことか。何かあったのか。そう心配せずにはいられない程に、白蘭さんは無気力だった。


「どうかしたん、ですか」


もしミルフィオーレに何かがあったのなら。考えるだけで恐ろしい。恐る恐る尋ねると、白蘭さんは勢いよく顔を上げた。


「正チャン、僕どうしちゃったんだろう」

「え、」

「あの子たちの事を考えると、邪魔したくて邪魔したくて、うずうずするんだよね〜」

「はい?」


白蘭さんは曖昧な溜め息をしながら、にやにやと口を緩ませた。どうやら具合が悪いわけでも、ピンチに晒されているわけでもないようだ。またいつもの、悪い癖が出たのだろう。
それにしても、あの二人って誰のことだ。また新しい玩具を見つけたのだろうか。


「あ、正チャン。スパナ君今日から日本勤務だから」

「はぁ?今日…ですか」

「そうそう。もうそっちに行ってるからさ、よろしくね」


今、このタイミングでなんでスパナの話題が出るんだろう。相変わらずよくわからない白蘭さんの言動は、適当に流しておくに限ると僕の経験が言っていた。

それにしても、スパナか。スパナは僕も認める、優秀な技術者だ。もう1ヶ月近く会っていない。
彼が加われば、メローネ基地も随分居心地がよくなるだろう、と僕はほっと息を吐いた。




(それは、嵐の前兆)

090621



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