ちょっとそこのネバーランドまで




割と自宅から近いところに、大型ショッピングモールがある。私が住んでいる街は殆どが住宅地なので、手軽に行けるショッピングモールは重宝されている。これが出来たとき、女の子を中心に随分と話題になったものだ。今ではすっかり欠かせない生活の場である。
その中を躊躇うことなく進んでいくスパナを、私は追いかけるようにして歩いていた。


「スパナがいきなり来るから、もうびっくりしたよ」

「駄目、だったか?」

「駄目じゃないけれど…」

「?」


駄目じゃなくても何の準備もなしに来られたら、こちらが恥ずかしいではないか。それに例の味噌汁発言のお蔭で、結局誤解されたまま家を出ることになった。スパナはそんな私の心境を知ってか知らずか、穏やかな顔で続ける。


「ウチは楽しかった。一度、助手子の住んでいるところが見てみたかったんだ。それに家族はとっても温かくて親切」

「…まぁ、スパナがそういうならいいや」


あまりに穏やかな表情の彼に、私もどうでもよくなってきた。ところで、と私は改めて周りを見渡す。先にも言ったようにここはショッピングモールの一角である。


「なんでここに?」


そもそも、スパナは「すぐ基地に入ってもらいたい」と言いにきたのだ。そして今その基地に向かっているのではなかったか。


「基地に行くんじゃなかったの?」

「うん、そうだけど」

「ここ通り抜けるとか?」

「通り抜けるわけじゃない」


人混みを、迷う事無く進んで行くスパナ。今日は日曜日、家族連れで賑わっていて、大分歩きにくい。それにしても久しぶりだ。学生だったころは、よく通ったものだけれど。
そんなことを考えながら歩いていた私の腕は、不意に横方向へと引っ張られた。あっ、と声を上げる間に顔を上げると、すぐ側にスパナの顔。


「大丈夫か?」


いきなりだったので、とっさに声が出なかった。小さく頷きながら周りを見ると、そこは店と店の間の細く小さな隙間のようだ。


「ここ、どこ?」

「入り口」


スパナの答えが一瞬理解できなくて、私はぽかんと口を開ける。


「基地は地下にあるんだ。このショッピングモールの地下がミルフィオーレの日本支部、メローネ基地」

「えええ、全然知らなかった…!」

「マフィアの基地を大っぴらにするわけにいかないからな」


地下に、しかもこんな近場にあっただなんて考えもしなかった。入り口、と示された路地の先は一見行き止まりだ。でもスパナは私の手を掴んだまま歩き出す。秘密の入り口になっているのだろう、と感心したその時、スパナが振り返る。妙に険しい顔だった。


「基地に入ったら、必ずウチとの約束守って欲しいんだ」

「や、約束?」

「基地内を無闇に歩き回らないこと。知らない人に話しかけられても応じないこと。もしなんかあったら、」


脅かすのでも、ふざけているのでもなくて、スパナは至って真面目かつ本気だ。念を押すように彼は、私を見つめて言い放った。


「ウチの名前出してすぐ逃げろ」




(日本支部とやらは、危険地帯らしい)

090418



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