そうだった、 「え?」 空港に出迎えに来ていたミルフィオーレの隊員から電話を受け取ったスパナは、いつもと変わらない単調な声で二、三言、言葉を交わすと不機嫌そうに通信を切った。どうかしたのかと、彼の顔を覗き込むと、スパナは盛大な溜息を吐く。 「今から自宅待機だ」 思いもよらなかった指示に、私は思わず声を上げる。昨日の話では日本に到着してすぐ基地入りすることになっていたのだが、急に予定が変わったらしい。 「白蘭から連絡があった。ウチらをイタリアから追い出したはいいが、日本基地に連絡とるの忘れてたらしい。なんとかウチは基地に入れるみたいだけど、あんたは新入り扱いだから、登録に少し時間がかかるんだ。一度家に帰ってもらわないとならなくなった」 手に持った電話を軽く睨みつけて、それを控えていた隊員に押しつけるように返す。きっと内心で白蘭に悪態をついているのだろう。最近は、そうしたスパナの微妙な感情の変化も察せるようになってきた。 不意に私に視線を戻した彼は、今度は情けないような困ったような、なんだか分からない表情をする。心配してくれているのだろうか、一応部下なわけだし。 「大丈夫、どっちにしろ家に顔だす予定だったから」 安心させるようにちょっと微笑んで答えたら、スパナもちょっと頬を緩めて頷いた。 「悪いな。すぐに終わらせる」 「ええと、どのくらいかかる?あと私、基地の場所分からないから迎えに来てもらわないと…」 「大体、ふつうは一週間位かかるけど」 「一週間も?」 「でも、三日で終わらせる」 だからウチに任せて自宅満喫してこい、だなんて、スパナと随分打ち解けられるようになったものだ。この日本を出た時は、まだ他人同然だったのに。それを思い出すと、今やマフィアの一員である自分を未だ不思議に思う。 兎にも角にも、私は自宅へ帰ることになったのである。 大した説明もせず日本を立って早一ヶ月とちょっと。連絡もしていなかったので(勉強地獄だったのだ)些か家族と顔を合わせるのが気恥ずかしい。 それでも理解のあるうちの両親は温かく迎え入れてくれるだろうと、そう思った。ただし問題は、 (なぜか心配性な弟に、どうやってマフィアのことをごまかすか、だな) 090204 |