君を繋ぎとめる方法




「今なら白蘭はいない。裏口から出ればばれない」


ゆっくりと、スパナはこちらへ近づく。


「荷物はそこにある、早く出てけ」


冷たい言葉。彼の示す方を見れば、確かに私のキャリーケースが置いてあった。
……勝手に荷物詰めたのか、用意がいいことだ。


「ウチらはもう他人。だからとっとと―…!?」


スパナの声が途切れる。
それもその筈、私はすぐ前で動きを止めたスパナの足に縋るように掴みかかっていた。


「な、助手子やめ、」

「ばか!」

「は?…て、ちょ、足引っ張っ」

「スパナのばか、勝手に決めんなちくしょう!」


情けないことに、腰が抜けて立ち上がれない。私はスパナの足にまとわりついたまま、悪態をつく。


「誰が、出ていきたいって言ったのよ!私は自分の意志でここにいるの、勝手に、辞めさせるのなんて卑怯、スパナのばか!」

「…(泣いてる)!」

「絶対辞めないんだから、人殺しなんてね、あんたにできるわけないじゃない!どうせ今みたいに情けなく手が震えて、死んじゃうのがオチでしょ!だったら私の方がね…うわぁぁん!」


泣くつもりは無かったのだが、溢れ出した涙は止まらなかった。
スパナはおろおろと情けない顔で私を見下ろしている。不意に、ごとんという音がした。ピストルが床に落ちたのだ。


「泣くな、頼むから!」

「………っ」


バチン!
なぜかスパナは情けない顔で私の顔を覗きこんできた。誰のせいで泣いていると思うのだ。何かむかついて、私は考えるよりも早く手を振り下ろしていた。


「痛、」


スパナの頬には私の手形がくっきり残る。


「助手子、あの、ごめ」

「謝るくらいならね、もうこんなことしないでっ!」


私を追い出すことを諦めたのか、スパナはいつもの顔に戻っている。
私は精一杯スパナを睨みつけて、聞いた。


「私はスパナの、何?」

「……ウチの助手」

「よろしい」


鼻をすすりながら赤くなった目を擦ると、スパナは急に私を抱き寄せる。あまりに急にだったから驚いて押し返そうとしたが、スパナはびくともしなかった。


「スパナ!?」

「ごめん、ウチはあんたをマフィアにしたくなかった」

「だから、私は」

「でもやっぱりあんたに助手してもらいたい。だから、ごめん。もう泣くな」


ぎゅう、と抱きしめられる力に、スパナがどんな思いで私を追い出そうとしたか、全部私を思ってやってくれたことなのだと、わかった気がした。


「…私も、叩いちゃってごめんね」

「大丈夫」

「…スパナがいきなり抱きしめるから、鼻水ついたかも」

「………大丈夫(後で助手子に洗わせよう)」


私をあやすように叩かれた手が暖かくて、私はぐちゃぐちゃの顔でなんだかよくわからない笑いがこみ上げてきた。
微かにする、オイルの匂いが心地よかった。




(どうも君の涙には弱いんだ)

090107



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